■『板尾創路の脱獄王』■(映画) 


イタオイツジノダツゴクオウ
正直なところ、最初にこの映画のことを知ったときは、「ああ、また同じようなもんだろ」と。

同じようなもん、というのは某お笑い芸人が監督した作品で、肌の合わなかった作品が近年にあったからで、そこからくる先入観が強かったからなんですよね。
でも、本作の予告編を観た時に、「あ、これはいけるかも」というなんというか直感というと大袈裟ですけど、そんな匂いを感じ取ったわけです。

さて、その匂いははたして正解だったか否か・・・。


最近は自身が主役のTVドラマも放映されている、板尾創路による初監督作品。

彼についてはすでに俳優としての実績があり、その演技力の高さは僕も実際に出演作を幾つか観てますのでよく存じ上げてはいるのですが、監督となると正直未知数なわけで・・・。
もっとも、過去に短編は撮ったことがあるとのことで、まったくの初めてというわけではないとのこと。

そもそも、タイトルに自分の名前を掲げるあたり、その自信の程もうかがえるというもの。
いや、それとも単にウケ狙いなのかも、とまぁとにかく観る前にはいろいろ頭の中を逡巡するものがありました。


時代は太平洋戦争の影が忍び寄りつつある昭和の初め。
映画は主人公の鈴木(板尾創路)が、とある監獄から脱獄する場面から始まります。

しかし、鈴木はすぐに逮捕され、また監獄に収監される。そして、また脱獄を繰り返す。
ゆえに鈴木は世間から「脱獄王」と呼ばれていました。

そんな彼に監守長の金村(國村隼)は興味を持ちます。
なぜ鈴木は何度も脱獄を繰り返しては、すぐに捕まってしまうのか。
そしてまた脱獄するそこにはなんらかの理由があるはずだと。

数年後、政府の高官となった金村は、鈴木が「監獄島」と呼ばれる孤島へ送られることを知ります。
そこへ行った犯罪者は戸籍を抹消され、生きては帰ってこれないという。
金村は政府に願い出て、鈴木の「監獄島」送りに同行します。
はたして、鈴木が脱獄を繰り返す理由とは・・・?


鈴木の類いまれなる生命力から生み出される巧みな脱獄の技術。
そのプロセスを観せる面白さ(ぜひ、本編で確認していただきたい)と、金村同様なぜ鈴木は脱獄を繰り返すのか、その謎解きの面白さが映画に絶大な効果を上げています。
劇中、セリフらしいセリフがほとんどない鈴木ゆえ、その行動理由が判りづらいという設定も、ある種の緊張感を含んでいてそれをラストまで持続させる板尾監督の演出力が見事!
また、鈴木と金村の友情ともとれる奇妙な関係も、ドラマに厚みを持たせていてストーリーテリングの妙も感じました。

いやぁ、本作を観る前は、笑いに逃げてしまうような映画だろうなぁ、と思いましたが、いたってシリアスな物語だったのは意外(製作に吉本興業が関わっているために、お笑い芸人の面々が多数出演していますが、いずれも真面目な演技を披露しています)でしたねぇ。


しかし、重要なところでは監督がお笑い芸人であることのプライドというのでしょうか、「笑い」を挟み込むことも忘れてないんです。

具体的に書けば2つあって、まずは収監されている途中で、鈴木がとある歌を口ずさむ場面があります。
最初はなんでそこで、その曲が出てくるの? と。
なにしろ時代設定と合わないし、そのうえ冒頭に掲げたあるお笑い芸人の監督作品と同じ選曲なんだもの。
しかし、これは「笑い」を取ろうとしたというよりも、映画を観終わって思い返してみれば、これも監督独自の演出のいひとつであり、「ああ、なるほど。そういうことだったのか!」と思わせるところもあって。
それはこの歌だけでなく、細かい演出の中にもラストにつながってくるヒントがいろいろ散りばめられているんです。それを考えるとなおさら本作の完成度の高さを実感するんですよね。

そしてもうひとつはラスト・シーン。
アラン・パーカーの秀作『バーディ』(84)に通じる味わいというんでしょうか、これは「巧い!」って思いましたねぇ。

あと、メインタイトルが2回登場するとか、本編とは関係ないのですが、本作の予告編にも面白い仕掛け(本編には登場しない方との共演場面が挿入されている)が施されているのも、監督なりのユーモアなんでしょうね。


収監中、鈴木は麦の雑炊らしきものしか喰ってないのに、なんであんなに機敏に行動できるのか、とういうか、もっと痩せ細ってしかるべきだろう、とか、
長い間風呂にも入ってないんだからもっと汚い格好(さらに糞尿垂れ流し状態と思われるのに)なんじゃないの、とか、
いろいろつっこめばアラも無くはない映画でしたが、初監督作品にしてこれだけの映画を撮ることができるのは、やはり板尾創路という人物の才能だろうと思います。

というか、映画を観てなんやかんや書くだけの人が映画を撮るのと、実際に俳優の経験を積んだ人が映画を撮るのとで、これだけ作品に差が出てくるのは、個性の違いといえばそれまででしょうけど、やはり映画作りの現場の空気を吸ってるか吸ってないかで大きな違いがあるんだろうなと、実感したような映画でした。


あ、そうそう、本作はエンターテインメントとしても秀作であり、とある驚異の映像を観ることができるという意味でも付加価値の高い映画です。

それは何かは具体的なことを書くのは敢えて避けます(こちらも本編を観ていただきたい)が、鈴木が長い間収監されているというその時間の経過を知らしめるための演出で、当初てっきりあれはCGかと思いましたが、鑑賞後パンフを読むとなんと本物の映像なんだということ。

いや、CGでもこの演出は見事だなぁと思っていただけに、正直感嘆しましたよ。
昆虫好きのかたは必見!!

(MOVIX橿原にて鑑賞)

【採点:100点中80点】



※実在の脱獄王のルポ。
本作と合わせて読めば、これでアナタも脱獄マニア?




※こちらは脱獄犯を主人公としたフィクション。
故・熊井啓監督がこれを渡辺謙主演で監督する予定だったそうですね。





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