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■『おとうと』■(映画) 


オトウト
東京の郊外で小さな薬局を営む吟子(吉永小百合)。
夫を早くに亡くし、一人娘の小春(蒼井優)と姑(加藤治子)と3人暮らし。
小春はエリート医師との結婚が決まっておりました。

結婚式当日、永らく消息不明だった吟子の弟、鉄郎(笑福亭鶴瓶)がひょっこり現れます。
この鉄郎、酒癖がとても悪くて吟子の兄(小林稔侍)は疎ましく思いますが、幼い頃から吟子はなにかと鉄郎の世話を焼いていました。

はたして、兄や吟子に固く禁じられていたにもかかわらず、鉄郎はお酒に手を出してしまい、挙げ句に結婚式はめちゃくちゃになってしまいます。

兄に兄弟の縁を切るとまで言われ、吟子にも叱責され意気消沈の鉄郎は大阪に帰りますが、そんな彼に電車賃を手渡してやる吟子でありました・・・。



山田洋次監督の新作は、久しぶりの現代劇。
しっかり者の姉とダメ人間の弟の構図は、『男はつらいよ』の寅次郎とさくらの関係を逆転させたようで、監督のスタイルはここでも崩れません。
それでいて鉄郎の、破天荒な人物ながら憎めないというキャラクターは、それを演じる笑福亭鶴瓶の巧さと彼自身のキャラクターが見事に融合して、渥美清が演じた寅さんとはまた違った味わいを見せてくれます。

映画はこの鉄郎が引き起こす出来事を時にユーモラスに、時にヒューニズムあふれるタッチで描かれていきます。
どうしようもない弟に対し、大人になってもなにかと世話を焼いてやる姉。
姉と弟という切っても切り離せない絆、これまでも家族をテーマに数多くの作品を撮ってきた山田洋次監督の真骨頂ともいうべき作品でした。

また、現代劇でありながら、「平成」というよりも「昭和」の匂いを感じさせるところ(オープニングの戦後の「昭和」をコンパクトにさらりと説明してしまうところもお見事!)が山田洋次監督の持ち味。

けっしてそれが古臭いとか時代遅れだというのではなく、たとえば吟子と彼女が店を構える商店街仲間(笹野高史、森本レオ)との交流であったり、小春が苦難の末にささやかな幸せをつかんでいくシチュエーションなどは、人と人とのつながりが希薄になった現代において、かえって新鮮に映るものであり一服の清涼剤になる。
実際、僕が山田洋次作品に魅力を感じるのはそこなのであって、本作でもその点においては期待にたがわぬ出来でした。


とりわけ、映画の後半は舞台が東京から大阪は西成に移ります。
しかも、ロケが行われたJR新今宮駅周辺は個人的によく通る場所(日本橋の電気屋街へCD漁りに行くために・笑)で、日頃からなじみのある場所がスクリーンに登場するのはやっぱり嬉しいものです。


ただ、その大阪に舞台が移ってから、映画はシリアスな色合いが濃くなっていきます。
そもそも監督はこの後半のシチュエーションこそが描きたかったのでしょう。
先に監督の持ち味は「昭和」の匂いを感じさせると書きましたが、そんなスタイルの中においても現代社会が抱える問題を鋭くえぐってみせる。
もちろん、シリアスな展開のなかにもユーモアを忘れないところが、山田洋次という監督の他の追随を許さないところで敬服してしまうのですが、それでもなお、その後半のくだりが多少堅苦しく居心地が悪く感じてしまったのも事実。
ここで重要な役柄として登場するキャラを演じる小日向文世石田ゆり子も、素晴らしい演技を見せてくれます(西成が舞台なのに、なぜか関西弁じゃないのがとてつもなく残念なことだけれども)。

ただ、これはあくまで極私的なことですが、クライマックスのくだりとよく似たシチュエーションを実体験したものとしては、フィクションとしてこれを観ることができなかった部分もありまして、そこのところがちょっと辛かったなぁというのが正直なところです。


あのままで映画が終ってしまったのなら、ちょっと立ち直れないなぁと思っていたのですが、風呂敷を広げたままにせず、ちゃんと結び直して最後にキリっと結び目も作られているような、丁寧な映画作りに救われたような気がします。
なお、本作は市川崑監督の『おとうと』(60)にオマージュが捧げられています。
残念ながら市川監督の『おとうと』は未見なので、本作との関連性について述べる術はないのですが、先人への敬意を含みつつ確固としたスタイルでもって新作を取り上げた山田洋次監督には、これからももっともっと映画を撮り続けていってほしいと切に願うものでありました。


あ、最後に、蒼井優のウェディングドレス姿が眩しゅうございました。
細身だと思っていた彼女、意外と脇のあたりがぷにゅっとしているところが、よかったですねぇ・・・。

(MOVIX橿原にて鑑賞)

【採点:100点中75点】


※本作のポスターデザイン画を担当した、松本春野さんによる本作からインスパイアされた絵本。
とっても味わいのある、温かい絵です。読んでみたい・・・。



※こちらは市川崑監督による『おとうと』。
こちらも機会があれば観てみたい。





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