■『海角七号 君想う、国境の南』■(映画) 


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先日観た韓国映画『牛の鈴音』は、最初わずかな上映館で公開されたところ、観客の口コミによって大ヒットを記録した作品でした。
今回観た台湾映画『海角七号 君想う、国境の南』も、『牛の鈴音』と同じ経緯をたどった作品で、こちらも最初は僅かな上映館だったのが、口コミで一気に広まった挙げ句、台湾では『タイタニック』に続く興行成績を記録したそうな。

いずれの作品も有名俳優も出演していない(前者はドキュメンタリー映画でしたもんね)のに、これほどヒットするというのは、最初から映画を売らんがために宣伝からなにからガチガチに固められたものではなく、いわずもがな作品本来の質の高さによるもので、考えてみれば日本映画ではそんな作品、しばらくお目にかかってないなぁ・・・と。
そういう意味では『牛の鈴音』然り、『海角七号~』然り、多少なりとも日本の映画界にいい刺激を与えるものになるんじゃないかと期待してはいるのですけどね。

さて、その『海角七号~』。
第二次大戦後、日本は敗戦し、軍が統治していた台湾に居住していた日本人も、本国へ帰国せざるをえなくなるなかで、恋愛関係にあった日本の教師と台湾の教え子の間にも別れが訪れる。
そんな教え子に宛てて教師が書いた手紙の束。これが戦後60年経った現在、台湾へと届けられる。
それをたまたま手にした主人公と、彼を取り巻く人々の姿を描くという内容。
果たして、その手紙は60年の時を超えて、教え子(現在では老婆となっている)の手に届くのだろうか?

だいたいのストーリーはこのように事前に知っていたので、物語の大半は主人公がその手紙の主を探して右往左往するんだろうな、と思っていましたが、実際に本編を観るとその予想といささか違うことに正直面食らってしまいました。

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台北でミュージシャンを目指していた主人公アガ(ファン・イーチェン)は、夢破れて故郷の恒春(ハンチュウ)へ戻ってきます。
父はすでになく、母は地元の議会長ホン(マー・ルーロン。北朝鮮の将軍様似)といい仲みたい。
毎日怠惰な生活をしているアガを見かねて、ホン議長は郵便配達員の仕事を与えます。じつは町の郵便配達員で月琴の名手、ボー爺さん(リン・ゾンレン)が、事故に遭ったために配達員の欠員が出たのです。

郵便の束をやる気なさげに配達するアガ。
その中に一通の小包があったのですが、中を見ても彼には読めない文字で書かれているので、配達もせずに自分の部屋にほったらかしたまま。

一方、日本人のモデルでありながら、恒春で外人タレントのグラビア撮影のマネージャーを押し付けられた友子さん(田中千絵)は、なんでこんな仕事を! と日本の事務所に愚痴りつつ仕事をこなしています。
いつもブツブツイライラしている友子さん。

さて、恒春のホテルでは日本のミュージシャン中孝介(中孝介本人)を招いてコンサートの企画が持ち上がりますが、ホン議長は、町を出て行く若者が多い中、それをつなぎとめるためにもそのコンサートの前座として、地元のミュージシャンを出演させるようホテル経営者を説き伏せます。
説き伏せたのはいいけれど、その肝心のミュージシャンがいない。
ってんで、急遽ミュージシャンのオーデションを開くことに。

仕事に不満な友子さんも帰国しようと思っていたところ、中孝介の通訳として留まらざるをえなくなる。
しかも、地元ミュージシャンの審査員までさせられてしまう。
アガも嫌々ながらオーデションに来ますが、そこで友子さんと出会います。

いろいろあった末、地元バンドはアガがヴォーカル、ドラムは修理工のカエル、キーボードは小学生のダダ、ギターは警官のローマー(桂吉弥似)、ベースはこれまた警察官でローマーの父という、年齢もバラバラなメンバーに決定。
しかし、ローマーの父が事故に遭って、ボー爺さんが月琴をベースに持ち替えて参加。
でもロクに弾けないのでタンバリン担当。
かわりにベースはホテルで地元の酒を販売していたマラサン(という役名じゃなく、マラサンという酒を売ってたのでそう呼ばれている)が務めることに。

なんやかんやあって(アガと友子さんが、常にいがみ合いながらも最終的に恋愛関係になるとか)、日本からも中孝介がやってくる。
即席バンドもなんとか練習をこなして、ようやくコンサート当日。
はたして彼らは無事、コンサートを成功させることができるのでしょうか???

おいおい、肝心の60年前の手紙はどうしたよ?

この映画、上に書いたような現在の物語の合間に、60年前の手紙がナレーションのごとく朗読(日本語で)されるという、ちょっと変わった趣向の作品になっており、かといって60年前の悲恋が具体的に映像として描かれることもなく、あくまで現在の物語のBGMのような感じで手紙の朗読が流れるのです。
しかも、現代の物語はお世辞にも出来がいいとは言いがたい、ベタベタなギャグが延々描かれるB級コメディの様相(いや、台湾の方々にはこれがとっても面白いのかもしれないけど)やたら騒々しく観ていてこっ恥ずかしくなってくるようなシロモノ。
正直なところ最初に抱いていたイメージとは大きく異なるその内容にただただ唖然・・・。

そのくせ、60年前の手紙が朗読される場面はリリカルなスコアを伴って情感たっぷりに描かれるのです。
そのギャップがどうもしっくりこないんですよねぇ・・・。

結局のところ、物語の大半を占めているんだろうな、と当初思っていた手紙の宛て先探し(台湾統治時代の地名で、それが「海角七号」というわけ)のエピソードは、物語全体の4分の1、いや、5分の1くらいの割合でしかないのにはビックリ(しかも、出来過ぎな偶然によってその宛て先が見つかる。その後、どうなるかは映画をご覧いただきたい)。
その手紙にまつわるエピソードよりも、主人公のアガや友子さんはもちろんのこと、即席バンドのメンバーや、その他の登場人物(ホテルのベッドメイキングをしている、キーボード担当のダダの母親とか)それぞれに抱えているものがあって、それらがいかに解消されていくか、ということに物語の重点が置かれているんです。

で、その解消のきっかけになるのが、クライマックスのコンサートであり、60年前の手紙というわけ。

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先にも書いたように、あまりにベタベタなギャグテイストが濃厚(場内からは何度も笑い声が挙がってました。いや、たしかに笑えるものもあることはあるんですけど)なので、映画全体も思わず低く見てしまいがち。
それによって、映画に対する評価も、観た人それぞれに分かれると思うんですけど、最後の最後でそんな洒落た仕掛けを忍ばせている、じつに凝った内容の映画になっていました。
本作を監督したウェイ・ダーションは、かのエドワード・ヤンの助手をしていたそうで、いわば彼の後継者ともいうべき人物。
なるほど、エドワード・ヤンもけっこう凝った映画を撮った人でしたから、その作風は受け継いでいるのでしょう。


もっとエモーショナルな部分が濃厚な作品で、そこからクライマックスで怒涛のように涙腺を攻撃してくるんだろうな、という予想を大きく裏切られた印象で、そういう点ではライトな後味ではありましたが、こういう裏切り方もアリかな、と思いましたねぇ。

でも、これが多くの台湾の人々の心を掴んだというのは、なんだろう、コメディ・タッチであり、ラヴ・ストーリーであり、最後は音楽でもって盛り上げるという、誰もが受け入れやすいエンターテインメントな要素を散りばめつつ、土台となるヒューマンな部分を崩さなかったことが、観客の共感を得たのかもしれませんね。


劇中で、友子を演じる田中千絵という女優は、日本でも幾つかのドラマや映画に出演後、活動の場を台湾に移し、今回の大ヒット映画に抜擢されたとのこと。
そのバイタリティには敬服してしまいますが、かのトニータナカ氏(メイクアップ・アーティスト)の娘さんなんですね。
本作でも台湾の地で自分の居場所を模索するヒロインを好演していました。
今後も台湾で活動を続けるそうですが、日本の作品でもまた姿を拝見したいものです。
中孝介は本人役と60年前の日本人教師と二役を演じていましたが、お世辞にも演技は巧くない(セリフが聴き取れないんですよ)。
まぁ、もともとミュージシャンが本業ですから、仕方がないといえば仕方がないんですけど、どうもお飾りのような扱いでしかなかったのはちょいと残念でしたね。


個人的なことながら、僕自身、十年近く前に社員旅行で台湾へ行きました。
旅行会社の説明では比較的治安の良い国であるということを聞いていましたが、それでも明治から第二次大戦まで日本の占領下にあった国。
のこのこ旅行へ行っても、台湾の人々の感情はどうなんだろう? と複雑な思いもありました。
が、宿泊したホテルの従業員はともかく、2日ほど台北の街をブラブラ歩き回りましたが、こちらが日本人だとわかっていてもとっても親しく接してくださるんですよね(もちろん、土産物屋なんかはそうですけど。僕が書くのはまったくの民間の方々)。

ちまきを買ったセブンイレブンのおに~ちゃんなんか、言葉がわかんないのにあれこれ喋っているうちにとってもいい感じになりましたし、道路工事をしていたおに~ちゃんともそんな感じ。
屋台で酔っ払っていたおじ~さんは、「あんたら、日本人か。よく来たな!」と、酒をすすめてくれました。

そんなこんなで、台湾という国には少なからずいい印象を持ったのですが、それでもやはり拭えない歴史の傷痕というのも確かに残っています。
今回の映画はそんな日本と台湾の負の歴史を、じつにライトな形で取り上げた稀有な作品であり、これがきっかけで日本の若い世代にも、かつての台湾における日本の存在を勉強するきっかけになるだろうし(何でボー爺さんが日本語で「野ばら」を歌っているのか、その意味がわかるだけでも映画に対する理解度は高まると思う)、また日本と台湾の友好関係がより強く深まるものになると願うばかりです。

(梅田ガーデンシネマにて鑑賞)

【採点:100点中70点】


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今回、鑑賞した梅田ガーデンシネマのロビーに置かれていた、本作の舞台となった台湾は恒春のへの旅行案内小冊子。
映画のストーリーとともにロケ地を巡るプランがいろいろ掲載されています。
それはいいんですが、あちこちにちょいとおかしい日本語が記載されているのがご愛嬌(笑)
この冊子を持参すると、現地でいろいろ割引もあるみたいですよ。












※本作のサウンドトラックCD(日本盤)。
本国盤(輸入盤)との違いは、劇中に流れた中孝介の「それぞれに」というナンバーが収録されていること。




※こちらは本国盤(輸入盤)サウンドトラックCD。
中孝介の「それぞれに」は収録されていませんが、劇中に登場する60年前の手紙を模した、特殊なケースにCDが入っているという凝った作りになっています。






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