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■『イングロリアス・バスターズ』■(映画) 


イングロリアスバスターズ
ナチ占領下のフランス。
ユダヤ・ハンターの異名を持つハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)に家族を惨殺されたユダヤ人女性ショシャナ(メラニー・ロラン)は、からくもその場から逃げ出します。
数年後、ショシャナはミミューと名前を変え、フランスのとある街で映画館のオーナーになっていました。
いろいろあって、彼女の映画館でナチの戦意高揚映画を上映するという企画が持ち上がります。
なんとこそにはヒトラー総統をはじめ、ナチの高官、そして憎きランダ大佐もやってくる。
ショシャナは上映会を利用して、ランダ大佐への復讐はもとよりナチ一掃計画を企てるのでありました。

一方、アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)率いる、ユダヤ系アメリカ人で構成された「イングロリアス・パスターズ」なる一小隊が、ナチを震え上がらせていました。
彼等はフランスに潜入、出会ったドイツ兵を片っ端から残虐な方法で虐殺(バットで撲殺するわ、殺した兵士の頭の皮を剥ぐわ等々)。生かしたとしても、その額に鉤十字を彫るというエゲつなさ。
とうぜん、その噂を耳にしたヒトラー総統は激怒! なんとしても捕らえよ! と命令を下すものの、レイン中尉らはのらりくらりとその追っ手をかわすのでした。


クエンティン・タランティーノの新作は、これまでと違って舞台は第二次大戦の頃ということで、初めての非現代劇。
とはいえ、全部で五章からなる章立ての展開や、ショシャナの物語とイングロリアス・バスターズの物語と、まったくクロスしない別々のストーリーが同時進行し、それがクライマックスでひとつに結集するというスタイルは、これまで同様タランティーノのスタイルを踏襲したものになっています。
さらに、膨大な量の映画ネタも全編に散りばめられているというのも、タランティーノ独特のスタイル。
ということで、彼の作品が好きな方なら文句なしに楽しめる作品に仕上っています。
かくいう僕も彼の作品は『レザボア・ドッグス』(91)からずっと観続けているタランティーノ・ファンのひとり。
なので今回の作品も、その公開をいまかいまかと待ち遠しかったわけですよ。
しかも、本作は彼の作品のなかでも最も高い興行収入を打ち出した(タランティーノ作品の最高傑作の呼び声も高い)となると、これは期待しないわけにはいかないってなもので。


イングロリアスバスターズ4
いや、確かに面白い映画でしたよ。
これまでの作品同様、映像的なお遊びもあちこちに忍ばせてあったり、時にシリアスに時にコミカルに、時に悪趣味な演出は紛うことなくタランティーノの映画。

面白かったんですけどねぇ・・・。

この映画、上映時間は2時間30分あまりなのですが、本来はもっと長い作品になるはず(テレビ・ドラマシリーズになるくらいの膨大なシナリオだったとか)だったそうで、実際に撮影されたもののカンヌでの上映に間に合わせるために泣く泣くカットせざるを得なかった部分もあったとのこと。
だからなのか、本作における登場人物の書き込みがかなり薄い印象を受けました。
特にヒロインであるショシャナ。
たしかに冒頭で彼女の家族が惨殺される場面が描かれるのですが、いわゆる具体的な描写はほとんど映し出されないのです。それを見せないと、なぜ彼女が後半で描かれるような手法で復讐しようとするのか、その説得力が欠けるんですよね。
説得力が欠けたばかりに本来なら得られたであろう、クライマックスにおけるカタルシスもほとんど得られないのは残念至極でありました。


イングロリアスバスターズ6
一方、レイン中尉らイングロリアス・バスターズの面々がドイツ兵を虐殺する場面は克明に描かれます。
殺した兵士の頭皮を剥ぐ描写はもちろん、とりわけイーライ・ロス(『ホステル』(05)の監督)演じるドニーはドイツ兵から「ユダヤの熊」と恐れられており、彼がバットで兵士を撲殺する場面では頭部が破壊されるまでを克明に描く徹底ぶり。
そういうのを見せられると、いったい誰に感情移入すりゃいいのさ? って戸惑ってしまったのも事実。
なんだか、ドイツ兵が憐れになっちゃってねぇ・・・。

そういやぁ、こないだタランティーノとブラド・ピットが来日した際、日本の某アイドル・グループの番組に出演してましたが、あれを観た女子たちが、

「面白そうじゃん、観にいきた~~~い」

と、間違って恋人誘って劇場にきてみたら、非情に気まずい思いをすること請け合いです。



でも、ユダヤ系アメリカ人の皆さんはこの映画、とっても楽しんだのでしょうなぁ。
本作を観て思い出したのは、今年公開された『愛を読む人』。
あの作品でも物語の要になる部分が映像では描かれず、登場人物の証言のみで処理されています。
奇しくも本作と同じくナチとユダヤ人のエピソードだったことを考えれば、いかに第二次大戦中にナチがユダヤ人に対して行った行為が、残虐で非道なものであったかということは、わざわざ映像として描かなくともアメリカ人、とりわけユダヤ系の人々であれば周知のことなのでしょうね。
事実、今回の作品に出演している俳優たちの身内のなかにも、かつてナチの犠牲になった者もいることを考えれば、そりゃあ映画の中であっても、そのナチに一泡吹かせようという物語に出演することに大いに意義があるものであって、それを観る観客(ユダヤ系アメリカ人)の方も、ナチがどえらい目に遭うのを観ることで、ある種の高揚や感慨を得るのでしょう。
おそらく、本作が公開されているアメリカの劇場では、後半の展開は拍手喝采だったと思いますよ。


このあたりのことは、国民性の違いなのでそれを日本人に理解しなさいといっても無理な話。
先に書いたように、本来あるべきシーンがカットされたことによるキャラの掘り下げの浅さからくる物足りなさはもちろんのこと、それだけではくくれない、もっと他の要因からくる物足りなさを感じてしまったのは、本当に残念でした。
本作における肝心要な部分に感情移入できないままだったので、じゃあ、本作を楽しむとすれば先にも挙げたタランティーノ流の映像美学のみになってしまうのは、なんとも勿体ないことで。

でも、考えてみれば『キル・ビルVol.1』(03)なんて、アメリカ人の観客よりも日本人だからこそ楽しめたという部分も多々あったわけですし、今回のような作品があっても何ら不思議ではありません。
毎回監督自身が観たい映画を作っている印象の強い、ということは自身の興味深いジャンルの映画を作っているタランティーノ。それでいて、図らずとも観る者を選んでしまう結果になるということを考えると、彼が誰もが観て楽しめる作品を作る職人監督ではなくて、いまさらながらですが映像作家としてのタランティーノ、という印象を強く持ってしまいました。
映画自体は残念でしたが、その反面、タランティーノの手腕というものをあらためて実感することができました。


イングロリアスバスターズ5
さて、俳優に関して触れれば、ヒロイン、ショシャナを演じたフランス人女優メラニー・ロランの美しさは特筆モノ。
タランティーノ、よくぞ見つけてきたなぁって思いましたねぇ。
彼女は本国では女優をするかたわら監督もこなす器用な方なんだそうです。
気になったのは、彼女の首筋と胸元にあるホクロがとっても色っぽいんですが、なぜかポスター等のイラストではそのホクロが消されてるんですよ。なんでぇ?
『トゥームレイダー2』(03)のポスターにおけるアンジーのニップルじゃあるめぇし、余計なことするなよぉ。

彼女以上に存在感があったのが、ランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツ。
オーストリアの俳優だそうですが、極悪非道というか狡猾なランダ大佐を好演してました。ほんまに悪いやっちゃな、こいつ! って思いましたもんね。カンヌで男優賞を撮ったのも納得。
逆にブラッド・ピットは正直彼じゃなくたって・・・という印象しかなく、完全にイーライ・ロスに喰われていたって感じ。
酷い扱いだったのがダイアン・クルーガーにジュリー・ドレフュス。特に後者は『キル・ビル』以上に酷かったです。
他にもマイク・マイヤーズもちょろっと出てましたな。



イングロリアスバスターズ7
膨大な映画ネタは、いわば「裏映画検定」みたいな感じ(笑)
特に冒頭から流れる「遙かなるアラモ」やデイヴィッド・ボウイの「キャット・ピープルのテーマ」、幾つかのモリコーネ作品にフィルム・スタジオ・オーケストラ(よくスーパーのワゴン・セールで売られている廉価版CDでおなじみのオーケストラ)の安っぽいアレンジの「荒野の1ドル銀貨」などなど、これはまた別項で大いに語りたい映画音楽ネタの洪水はもとより、イタリア製B級映画監督の名前(エンツォ・ゴルローミにアントニオ・マルゲリーティ)をネタにした場面などは思わず大笑い。
でも、そんなのに笑えるのはタランティーノと映画オタクくらいなもので。

「彼らそれぞれの英変名と代表作を挙げなさい」なんて設問、間違っても普通の「映画検定」には出てこないでしょうけどね(僕は回答できます。自慢にもなんにもなりゃしないけど)。

ってなことで、監督にシンパシーを感じる部分も多々あれど、100%映画に入っていけなかったという、期待していただけにその差は僕にはかなり大きかった映画でありました。


(MOVIX橿原にて鑑賞)

【採点:100点中65点】



※まだ買っていませんが、かなり熱のこもった本になっている様子。
特にレビューでも触れていたように、削られたシーンについて詳細に記述されているページが興味深かったです。



※個人的にタランティーノ作品の最高傑作は、これだと思いますねぇ。


※もちろん、こちらもお忘れなく!






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