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■『ホットロード』■(映画) 







ホットロード
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真夏だし、ここんところ天候の悪い日が続くので、しばらくは穏やかだが、もう少し季節が過ぎて夜も過ごしやすくなると、うちの近所にも珍走団が出没する。
あいつらは百害あって一利なしの、まんま害虫みたいな存在なので、さっさと地元の警察に駆除していただきたいのだが、害虫のほうもそのあたりを心得ているのか、警察の裏をかいたりするので始末が悪い。


今回映画化された紡木たくによる原作コミック(別冊マーガレットに連載)は一度も読んだことはないが、そのいかにも少女マンガマンガした絵は何度か見かけたことがある。
少なくとも実際の珍走団は、到底この世には存在しないだろう、あんな美形な集団じゃない。
あの「絵」には強烈な違和感を持ったし、物語もおそらく、いかにも女子の憧れ~~~みたいな視線で描かれた、甘い甘々内容なんだろう(あらためて書くが未読だけど)と、半ば嫌悪感まで抱いていた。
巷の一部で騒がれていた、原作コミックは珍走団を美化しているという意見にも、そうだろうなぁ・・・とも思っていたものだ。


その原作コミックを映画化したのが本作。
主演は『あまちゃん』で日本中を魅了した能年玲奈。
そんな彼女の初主演映画ということで何かと話題の本作だが、なんでも彼女の起用はドラマ出演の前に決まっていたそうな。
それは事実だとしても、やはりどうしても『あまちゃん』人気というものが彼女について回るのは当然だ。
この映画を観るにあたって、能年玲奈という女優に対する先入観を取り去って望むのが正しいのは分かる。
しかし、それは不可能というものだろう。
さらに僕には、先にも書いたように珍走団美化という原作への先入観もあるものだから、この映画に対するイメージは固いものだった。


もうひとつ言えば、今回の映画の主題歌。
珍走団を美化した原作の映画化の主題歌に、不良を美化するかのようなあのアーティストのナンバーを使うなんて、こりゃあもう、ある意味「どストライク」ではないか。
あえて「不良を美化」と書いているが、あくまで僕個人の感想である。
あのアーティストと僕とはまったく同じ世代だ。
彼のナンバーの数々には今回の主題歌はもとより、名曲だなぁと思うものも幾つかある。
しかし、彼の放った世界観にはまったく同意できなかった。それは今でもそうだ。
同じ世代を過ごしていても、大人や権力に対する反抗を「犯罪」や「暴力」で表現することに大いに抵抗を感じた僕のような者もいたのだ。


ゆえに、本来ならこのような映画には食指は動かない。
しかし、今月末で閉館が決まっている地元のシネコンであり、僕が担当している映画音楽番組に制作面で長年協力してもらっていたMOVIX橿原さんの最後のロードショー作品となれば、これは駆けつけないわけにはいかない。
しかも、松竹配給ということで、MOVIX橿原(松竹資本のシネコンなので)の最後の封切作品としてはピッタリ過ぎる。


はたせるかな、場内には10代とおぼしき観客がそのほとんどを占めるている(実際に原作に惹かれた世代はもう少し上なんだろうけど。10代が多いのは、能年玲奈の相手役人気によるものだったのだろうか)中で、僕のような者はどんな顔して本作を観ればいいんだろう・・・と思いながら席に着いた。


幼い頃に父を亡くし、母と二人きりの生活をしている中学生のヒロイン。
どうやら母には長年付き合っている恋人がいるらしい。
そんな母に対する不信感は、やがて彼女を万引きへ、さらに家出へと駆り立てる。
身の置き場を模索するヒロインは、とある珍走団と関わりを持ち、その切り込み隊長(まったく言うことが逐一極道だなぁ)で、次期リーダー的存在の男に惹かれていく。
やがてとある出来事が起こって、物語はドラマティックな展開を見せる。


4巻に及ぶ原作を、映画は2時間弱の作品に仕上げている。
当然、原作の幾つかを削って仕上げているのだろうが、映画が原作のどれだけのものを表現できているのかは判らない。

大いに気になったのは、ヒロインの父親に対する思い出のエピソードで、それはヒロインを救いようのないところまで陥れる(詳しいところは映画をご覧いただきたい)。
が、劇中の人物は、
「大人もいろいろあるんだよ」
の一言で済ませて、ヒロインもそれに納得してしまうくだりには、思わず失笑してしまった。
おいおい、一番悩んでいた案件がそれで済むのかい、って。


また、珍走団の元団長(鈴木亮平)に関するエピソードも、あやふやな描き方で、彼とその恋人との行動もなにがなんやら? なものだった。

ほかにも切り込み隊長(あ、春山って役名でしたっけ)が、たった一人で抗争する珍走団に殴り込みに行くのだが、一人対多数だったら普通なら殴り殺されてしまうだろう。
しかし、頭に包帯巻くくらいで済むなんて、あんたはマーベルコミックのヒーローか(あ、原作はコミックだったか。なるほど)。


かように、あちこちアラも目立つ物語だが、じゃあ、この映画は全然ダメだったのか、といえば、決してそうではない。
そんなマイナス要素を蹴散らすほどのパワーをもっているのが誰あろう、能年玲奈その人なのだった。


ドメスティックな悩みの末、珍走団に身を置くヒロイン。
しかし、そこで様々な出来事を経て、彼女自身が見失いそうになっていた人生における大事なことに気づき前向きに歩んでいく。
『ホットロード』とはそういう物語だ。

映画はこれをヒロイン自身のモノローグで綴っていくという構成。
最初はこのモノローグが過剰に感じたが、観ているうちにそれが映画のリズムを形作る大きな要素なのだということに気づかされる。
それを、じつに透明感あふれる演技で、能年玲奈はヒロインを演じきっているのだ。

正直なところ、僕はこの能年玲奈という女優にさほど魅力を感じてなかった。
『あまちゃん』人気も、脚本の宮藤官九郎と多彩な出演陣(とりわけ小泉今日子の存在は多大だ)に支えられてのものだったと思う。
演技もお世辞にも上手いとは感じられず、かえって『あまちゃん』で早々にブレイクしてしまったのは、彼女に対する大きな足枷なんじゃないかとも思った。
女優としての真価を問われるのは、まさに本作においてなのである。


それを彼女は見事に全うしたと言っていい。
彼女自身のキャラクター性と、本作における、まるでドブ川の濁りを浄化していくかのようなヒロインの姿には、劇中、何度かその衝撃に震えを感じてしまったほどだ。

不良になったとはいえ、ちょっと髪の毛を染めたか染めないか程度の、微妙なヒロインの髪型は説得力に欠けるかもしれない。
それは単にビジュアル面において、ということだけで、心まで完全に不良に染まっていない(というか、美容院に行くようなマヌケな描写は本作には不要だ)ということを表現しているのだと解釈すれば、本作を観る上では大きな支障ではない。

彼女が身を置く「いい珍走団(珍走団にいいも悪いもないのだけど)」についても、
♪パラララ~~~パラララ~~~♪
とクラクションを吹かせ、危険運転を繰り返すような描写はほとんどないのもどうなの?とは思ったし、「悪い珍走団」との抗争劇も盛り込まれてはいるが、できるかぎりスローな映像表現と、そこに時折挟み込まれる湘南のショットという編集の妙は、能年玲奈のモノローグと相まって、心地良いグルーヴ感を形成していく。

もちろんそれはヒロインの心情を見事に映像で表現している、三木監督の手腕でもある。
全体を包む空気は静謐で透明に近い。
そのイメージは、観る前まで半ば嫌悪感さえ抱いていた本作に対する印象を、ガラリと変えてしまったのは、僕自身驚きだった。


監督した三木孝浩氏の作品は過去に何度か観ている。
そこでも、やはり静謐で透明な印象は感じていたことだったが、本作はそれが抜きんでているのは、もちろん能年玲奈という稀有な存在によるものも大きい。
しかし、その魅力を引き出した監督の手腕は大いに評価すべきところだ(原作が発表された80年代後半を、映画の舞台にしているのだろう、劇中にスマホはおろか、携帯も登場させない細かな気遣いも光っていた)。


惜しむらくは、能年玲奈という女優に対する先入観がまったくない状態で、しかもシネコン全国一斉公開のような作品ではなく、ミニシアターでこっそり公開されているようなインディーズ系の映画であったなら、もっと本作から受けた衝撃は大きかったかもしれない。
「この女優、いったい誰なんだ???」と、そりゃあもう相当に驚いていただろうに。

いみじくも、登場人物の一人が言う、「心までもきれい」なヒロイン像を、彼女は現時点で自身が持つ演技力を十分発揮してそれに応えた。
なにしろ、実際は21歳なのに、どうみても14歳にしか見えないなんて、それだけでも凄いことだろう(笑)


最後に、本作で珍走団に対するネガティヴな印象はまったく払拭されたわけじゃない、ということだけは付け加えておく(エンドクレジットの最後に出る「注意書き」を見れば、本作が珍走団美化という姿勢で作ったわけじゃないことは明白だ)。




ホットロード
スコアを担当したのはmio-sotidoという、本名不詳、経歴不詳の作曲家。
三木監督とは前作の『陽だまりの彼女』でもスコアを担当している。

エレキギターをメインとした、アコースティックなスコアが中心となっており、これがじつに映像にマッチしているのだ。

音楽面でいえば、やはり主題歌の印象はとてつもなく強いわけで、スコアを担当する方にとっては相当に分が悪いだろう。
あくまで想像に過ぎないのだけれど、スコアは主題歌のイメージと大きくかけ離れたものではないのは、多かれ少なかれ主題歌を意識してのことだったと思う。

しかし、スコアはそれだけで一つの世界観を持つ見事な出来栄えであり、上でも書いたように映画から受ける静謐で透明なイメージは、能年玲奈の演技、三木監督の演出もさることながら、このmio-sotidoのスコアによるところも相当に大きい。

今回のスコアは、映像とは別にスコアだけでも、十分鑑賞できる魅力をもっている。
これは昨今の映画音楽全体のなかでも、稀有なことである。
ゆえに本作は、主演女優の魅力もさることながら、見事なスコアにも恵まれた幸せな一本だったといえる。

サントラはCDとダウンロードでリリースされている。

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ホットロードシュイダイカ
音楽面で付け加えるならば、あの主題歌はサントラには未収録。
ただし、映画公開に合わせて、紡木たくのデザインによるジャケットでベスト盤がリリースされており、そこに収録されている。






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