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■『風が強く吹いている』■(映画) 


カゼガツヨクフイテイル
とにかく運動音痴な僕は、昔から体育の時間がでぇっきらいでありまして、たとえば野球とかサッカーとかバレーとか、団体競技になると他人の脚を引っ張るので、いつも自己嫌悪に陥ってしまったものです。
「なんでこんなこと、やらなアカンねん・・・」
と心の中でぶつぶつ言いながら、一刻も早く体育の時間が早く終らんかなぁ、って願いながらガマンしていたような次第。
なので、どちらかというと個人競技、たとえば持久走とかそっちのほうが幾分マシでした。
これだったら他人の足をひっぱらず、自分ひとりで黙々とできるのでね。でも、たいがい最終ランナーでしたけど。

高校生の頃、体育の時間に3000mの持久走があって、いつものようにゼイゼイ息を切らしながら最後の方を走っていたんですけど、なぜかその時の体育の成績は自分でも信じられないような良い点を先生がつけてくれました。
先生のいる事務室に「なんで僕がこんな成績なんですか?」と問うと、
「○○(僕の苗字)は、クラスで一番真剣に授業に取り組んでいたからや」と。
「早いとか遅いとか、そんなことよりもいかに真剣に物事に取り組むかが大事なんや」と。

「しかし、悪い点付けられたって文句言う奴はいてるが、良い点付けられて文句言うのはお前が初めてや(笑)」
と、その先生は大笑いしてました。
体育の授業はもとより、高校生活にいい思い出がない僕には、その体育の先生の言葉はいまでも鮮明に覚えていることで、ことあるごとにそれを思い出しては自分を省みているような次第です。

本作、『風が強く吹いている』の劇中、足の速さについては他人よりも抜きん出ている実力をもつカケル(林遣都)が、リーダーのハイジ(小出恵介)に、「長距離選手に対する一番の褒め言葉って何かわかるか?」と問われて、
「速さですか?」と応えるカケルにハイジが「俺は強さだと思う」と諭す場面があります。
それを観て、僕と長距離選手とは雲泥の差がありますが、実質的には高校の時の体育の先生が僕に言わんとしていたのはこのことだったのかと、あらためて気づかされたような思いです。


とある大学の弱小陸上部が、箱根駅伝に出場し栄光を勝ち取るという、三浦しをんの原作を本作が映画監督第一作だという大森寿美男が映画化した、熱きスポ根映画の秀作が本作『風が強く吹いている』。
正月の箱根駅伝中継は、特に真剣になって観戦するほどでもない(たいがいその頃は酒を飲んで寝込んでいるか、正月映画を観に出かけていたりするので)のですが、これに限らずマラソン中継はけっこう観るほうで、もっとも僕よりも母親の方がこの手の番組は真剣になって観ております。
でも、あの過酷なレースに出場する選手たちはどのような思いを胸に秘めて参加しているのだろう?
あんな苦しい思いをしなくても、コタツに入って酒を飲んでるほうがええやんか、という素朴な疑問もありまして、本作ではそんなランナーたちの姿を垣間見ることができるのでは、という単純な興味から本作を観ました。


かつて、数々の大会で優秀な成績を残していたランナー、ハイジ。
彼には密かでかつ熱い夢を胸に抱いていました。それは箱根駅伝へ出場すること。
大学内で彼がスカウトした9人の若者はいずれも陸上とは縁のないような者ばかり。
2浪で2留のヘビースモーカー、頭脳明晰で司法試験合格者、クイズマニア、漫画オタク、田舎では神童と呼ばれた男、アフリカ人留学生、おね~ちゃん好きの双子、これで8人。
さらにハイジは新入生で生活費に困った挙げ句、校内で野宿していたカケルをスカウトします。カケルもハイジと同じく高校生の頃は優秀なランナーでしたが、ある暴力事件をきっかけに第一線を退いていたのでした。
それぞれに個性の強い面々なれど、ハイジには個々の潜在能力を見抜いており、それが結集すれば箱根駅伝に出場することは可能だと確信します。
ハイジは自ら寮長を務める「青竹荘」に彼らを住まわせると、彼らの食事の用意から掃除、洗濯まですべて行ういわば寮母のような立場となって部員の心を掴んでいきます。
ハイジのためなら俺たちは出場する! と、時に反目しつつ時に励ましあいながら、箱根駅伝出場を目指して邁進していくなかで、いつしかハイジのためではなく、自分自身のためであることに気づいていくのでありました。


とにかく、ハイジという人物のもつバイタリティと、部員を包み込むようなキャラが秀逸であり、これなら男も惚れるよなぁ(あ、そういう意味じゃなくて、ね)と思わせる説得力があるんですよね。
小出恵介はこのハイジを見事に演じており、時折セリフがストレート過ぎて多少クサい部分も無きにしもあらずですが(笑)、それが気にならなければ最後まで乗れる映画なんじゃないかと思いますね。
それに対するカケルを演じる林遣都は、部員のなかで唯一、走ることに自身のある人物。しかし、団体で行動することを嫌い、自分はただ走りたいから走るという信念をなかなか曲げようとしません。
しかし、ハイジの気心に触れ、そして気の置けない仲間たちと交流を深めているなかで、次第に彼の心にも変化が生じてくるのです。この難しいキャラを林遣都は見事にこなしていて、小出恵介とともに映画を引っ張っていきます。
もちろん、他の部員たちを演じるそれぞれの俳優も好演しており、監督の演出も選手個々のエピソードを丁寧に掘り下げて行くことで観客が感情移入しやすいような作りをしているのは、見ていて心地よかったところでした。


ただ、本作は2時間13分という上映時間が少し長め。
その長さがそのまま映画を冗長にしているとこもあって、もう少し切り詰めればもっとメリハリのある作品に仕上っていたのではないかと思います。
監督の大森氏はこれまでTVドラマの脚本家として活躍してこられた方で、先にも書いたように映画は本作が初めて。
なんでも監督は原作の大ファンだそうで、もちろん本作の脚色も監督が担当。つまり好きな作品を演出するという監督冥利に尽きる仕事だったことでしょうが、おそらくは脚色をするにあたって原作の大部分を映画に持ち込んだのでは。
僕は原作は未読ですが、好きな原作なら削りたくないエピソードも多々あったと考えるのは当然のこと。
しかし、ある程度の見切りをつけることも映画そのものの完成度に大きく関わってくるということは、映画を撮ったこともない僕が書くのもおこがましいのですが、やっぱりそう思うんですよ。本作を観るとその部分がちょっと残念だなぁと。
これがたとえばTVの連続ドラマであればよかったのかもしれませんが、映画は限られた時間がありますので、そういう意味での本作における監督のペース配分は、もう少し吟味する余地があったのかもしれません。


クライマックスの箱根駅伝の場面も、空撮などを駆使して多方面からの角度で駅伝の様子を収め、いわゆるTV中継では拝めることのできないような映像が大スクリーンに展開されるのはファンにとっては至福の喜びでしょう。
それまでの個々のキャラクターのドラマが詳細に描かれていることもあって、後半の駅伝の場面が盛り上がるという流れなんですが、レースが始まってからも個々のエピソードがちょこちょこ挿入されるんです。これは観ていて、正直なところ邪魔でした。
そういう部分もひっくるめてレース前にすべて描いておいて、駅伝が始まったらランナーの姿だけをカメラは追ってほしかったと思うんです。緊張と興奮はクライマックスまで持続させてほしかった。そこが本作の残念な部分でもありました。


レースが終わり、エンドクレジットのバックに流れる映像がとてもいいんです。
とてもストレートな映画であり、そして熱い映画。こういう王道を行くような作品もたまにはいいもんですね。
映画を観ながら、冒頭で書いた僕の高校時代のころを思い出すとともに、団体競技を嫌っていた僕としては、ある種の憧れと喪失感を同時味わい、爽快でいながらどこか後悔の念がないまぜになったなんとも不思議な感覚に包まれた映画でありました。

(MOVIX橿原にて鑑賞)

【採点:100点中65点】

※三浦しをんによる原作小説。
走ることを映像ではなく文字でどのように表現しているのか、興味深いところではあります。



※舞台版のDVD。
走ることを舞台でどのように表現しているのか、興味深いところではあります。



※昨年公開された、こちらも駅伝をテーマにした秀作『奈緒子』。
個人的にはこちらのほうが涙腺ゆるくなってしまいました。お薦め!






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