♪映画『砂の器』公開40周年記念コンサートに行く♪ 







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昨年の地元での大野雄二氏のコンサートも夢のような話だったが、今年も引き続き、映画音楽ファンにとって夢のようなコンサートが実現した。

日本映画の最高峰(少なくとも僕自身はそう思っている)、『砂の器』(74)が今年、40周年を迎える記念行事の一環として、劇中のクライマックスを彩る名曲「宿命」をライブで聴くことができるコンサートが開催されたのだった。


『砂の器』については、初見はTVだった。
たしか小学生くらいの頃、劇場公開後、TV初放映の時だったと記憶する。
ただ、おそらくノーカット放映だったかなにかで、終りが夜遅くなるのでその際は最後まで観ることができなかった。
が、翌朝、母親の顔が感動の涙で腫れ上がっていたのをおぼえている。
実際に最後まで観たのは社会人になってから。
故郷を離れ東京で一人暮らしをしていた頃で、たまたまビデオソフトが安く販売されていたのを見つけ、買ってきて自宅で鑑賞した。

ある殺人事件をきっかけに、そこに絡む人間模様。
松本清張の原作も良くできているのだろうが(いまだに未読)、野村芳太郎監督の演出、そして橋本忍、山田洋次の脚色、そしてなんといっても菅野光亮のスコアに圧倒され、名場面であるクライマックスでは涙がとめどなくあふれ出たものだった。


当時はすでに映画音楽ファンになっていた。
ただ、ラジオの映画音楽番組でも『砂の器』が取り上げられたことはあったが、いわゆる音源は長時間演奏でもあり、いつも全曲聴くことは叶わなかった。
映画のクライマックスを彩る「宿命」は、芥川也寸志氏のオーケストレーションによって、「ピアノと管弦楽のための組曲」としてパート1、2合わせて40分ほどの組曲となって、映画公開の翌年にレコード化されていたわけだが、パート1だけでも23分あるので、ラジオ番組ではどうしても途中でフェイドアウトせざるをえなかったわけだ。

僕自身、後年映画をビデオで観た頃に、CD化された「宿命」をようやく購入し、以来何度も聴いているお気に入りの一枚になっている。
無論、映画音楽の番組を担当させてもらっている中で、過去に取り上げたこともあるが、先にような理由で僕も途中でフェイドアウトせざるをえなかった。


今年、この編曲された「宿命」ではなく、いわゆるオリジナルサウンドトラック音源が発掘され、CD化されたのは映画が40周年を迎えた今年のビッグニュースだった。
そこにはクライマックスの「宿命」だけでなく、映画全編で使用された菅野氏のスコアが収録されており、これには歓喜の声をあげたものだった。

そのサウンドトラックCDリリースのニュースとともに飛び込んできたもう一つのビッグニュースが、組曲「宿命」がライブで演奏されるというものだった。


指揮はクラシックに疎い僕でもその名前も容姿も知っている西本智実氏。
ピアノは名前は存じ上げなかったが数々の賞を受賞されている外山啓介氏、演奏は日本フィルハーモニー管弦楽団。
残念だったのは、このコンサートが東京(東京芸術劇場コンサートホール)でのみの開催だったということ。
関西在住の僕としては、東京へ行ってでも聴きたかった(かつて、エンニオ・モリコーネやジェリー・ゴールドスミスが来日してのコンサートが東京のみだった際には、東京まで出かけていったものだ)が、3月30日という本業が一年のうちでも最も忙しい日だったことを恨みつつ(笑)、風の便りでコンサートの状況を憶測するしかなかったのだった。


が、東京での公演が好評だったのだろうか、幸いなことに大阪でのコンサート開催もすぐに決定したのは嬉しかった。
西本氏の指揮、外山氏のピアノ、そして大阪公演は日本センチュリー交響楽団(かつての大阪センチュリー交響楽団。改名などのいきさつは推してしるべし。某大阪市長のナンセンスな政策の影響で・・・とこれに触れると長くなるので割愛)の演奏である。

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場所はザ・シンフォニーホール。

ここではかつて、毎年夏に関西フィルの演奏による映画音楽のコンサートが開催されていた。
オリジナルスコアを用いて、『エデンの東』も有名なメインテーマではなく、エンディングのスコアや、『サヨナラ』から「カツミのテーマ」などを演奏するという、映画音楽ファンにはたまらないラインナップを聞いたのはもう10年くらい前になるだろうか。
あまりにマニアックな内容だったのか、その後は映画音楽だけじゃなく、いわゆるスタンダードナンバーなどを盛り込んだ内容になったので、コンサートの情報にアンテナを張ってなかったが、毎年夏に開催されるというスタイルは連綿と続いているようだ。


さて、今回のこのコンサート、ギリギリまで行くか行くまいか迷っていたのは、もちろん仕事の関係もあったが、母親にもこのコンサートを聴かせてやりたいと思ったから。
ただ、ここ数年、長時間歩くのはかなりつらそうなので、公共の交通機関を使ってホールのある福島(あ、大阪のですよ、東北じゃなくって)まで果たして行けるだろうか、という懸念があった。
しかし、母も『砂の器』は好きな映画の一つでもあるし、「宿命」も好きな曲でもある。
それをライブで聴けるというのは、母親の年齢から考えればこれが最後だろうし、ひょっとしたらコンサートホールでのコンサート自体、連れて行けるのもあとどれくらいか、と考えるとぜひとも聴かせてやりたいと思った。

が、体調のことも考えると・・・といろいろ逡巡した挙句、車でホールまで行くなら母親の負担にならないだろうと。
そのうえで、こういうコンサートがあるがどうする? と母に尋ねると「ぜひ、行きたい!」ということだったので、ようやくチケットを取ったという次第。

本音を言えば、僕自身、高速道路は初体験だったので、しかも高速初心者には難度が高いと言われる阪神高速環状線を使わねばならない。
しかし、母のためにも、と思い一念発起(そんな大袈裟なもんじゃないけど)し、前の週には予行演習で現地まで車で行ったりして(笑)、当日に臨んだ。

まぁ、結果、かなりスムーズに現地まで行けて、ホール開場の1時間前に到着したわけだが・・・(笑)

近くの「なか卯」(近くに朝日放送があった頃、妹尾和夫氏がよく通ったという)で昼食を摂り、それでもまだ開場まで1時間弱あったので、隣接する駐車場に停めた車の中でしばらく待機。
その頃は、ホール前にもほとんど人影がなかったが、開場30分前くらいになると福島駅あたりからゾロゾロと人がやってきたし、何台もタクシーがホール前に停車しては、お客さんを降ろしている。


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ようやく開場となり、ごったがえすホール内の中、2階席(建物でいえば4階にあたる)まで母の手を引いてなんとかたどりついた。
先に書いたように、速攻でチケットを取ったわけじゃなかったので、2階の桟敷席、№でいえばRF列9番10番という席になった。
事前にシンフォニーホールのサイトで確認すると、舞台が見えづらくはないけれど、一部席のでっぱりが死角になって舞台全体を見渡せないような感じだった。

が、実際に席に着くと思いのほか舞台がよく見える。
指揮者もピアニストもその表情がよく見えて、結果的にはこの席で十分だった。
1階席にはパイプ椅子による補助席もかなり出ていたが、これも母の体のことを考えると長時間パイプ椅子も辛かろうと思い、この席にしたわけだが結果として満足だった。


コンサートは前半と後半に分かれ、前半のオープニングは外山氏のピアノ・ソロ曲が3曲続いて演奏された。
ラフマニノフによる「ヴォカリーズ」、「前奏曲 作品23-4」、そして「前奏曲 作品3-3 鐘」である。
コンサートのオープニングとしては、かなり地味な印象があるが、「ヴォカリーズ」の甘美なメロディ、「作品23-4」の高貴な響き、そして浅田真央がフィギュアで使用して知られるようになった「鐘」の迫力に圧倒された。
個人的には「鐘」はオーケストラ演奏でも聴きたい1曲。おそらくクリストファー・ヤングの『ヘルレイザー』のメインテーマは、この曲からインスパイアされているだろう、というのは余計な話(笑)

で、なぜこの3曲が選曲されたかについては、配布されたパンフによると組曲「宿命」をアレンジした芥川氏がラフマニノフに傾倒していたということと、「宿命」をオーケストレーションする際に参考としたからだそうだ。
演奏する外山氏、かなりのイケメンである。
演奏が終わるたびに、客席から咳をする音が聞こえると、「演奏中、よく我慢していただきました」と言わんばかりに微笑みを浮かべていたのがかなり好印象だった(笑)


続いて、舞台上の楽器の配置がスピーディーに変更され、颯爽と西本氏が登場。
いやぁ、TVなどで西本氏の姿を拝見したことはあったが、やはりスタイルがいいしかなり男前(という表現はおかしいけど)。いわゆる麗人というイメージがピッタリ。
そして演奏されたのが芥川氏による「弦楽のための三楽章」。
これはコンサートでもよく演奏される人気の曲で、僕も以前にTVでこの曲が取り上げられたのを見たことがある。
激しい第一楽章に続く、牧歌的な第二楽章。そして第三楽章への盛り上がり。
弦楽器だけでもこれだけ豊かな表現ができることにあらためて感動する。


そこから20分の休憩を挟み、後半は40分にもおよぶ「宿命」の演奏となる。

再び舞台の中央にピアノが置かれ、今度は楽器も管楽器や打楽器も加わってのフルオーケストラとなる。
指揮者の西本氏、ピアノの外山氏も登場し、演奏が始まった。

いやぁ~~~もう、オープニングのピアノの音色から続くストリングスの演奏。
この冒頭部からすでにこちらの息は荒く、目頭が熱くなる。
パーカッションの響きに続き、「宿命」の主題が流れた途端、とうとう涙があふれた。

いま、実際にあの「宿命」をライブで聴いているということに強く熱く感動に震えた。
もう、そこからの40分は本当に夢のような時間だった。

CDで何度も聴いたあの曲が、どのように演奏されているか、それを目の当たりにするというのもこういったコンサートの醍醐味だ。
流麗なメインテーマの箇所もさることながら、いわゆる映画で言うところの「蒲田駅で死体が発見される」場面や「捜査会議」の場面での、前衛的な部分の演奏などもかなり興味深く聴き、見ることができた。

演奏もラストに近づき、まるで舞踊を踊っているかのような西本氏の指揮と、我賀英良の魂が乗り移ったかのような外山氏のピアノ、そして日本センチュリー交響楽団の演奏もクライマックスを迎える。

演奏が終わり、鳴り止まない拍手の中、何度も会場に深々と頭を下げる西本氏と外山氏。
さらに場内の拍手の音も大きくなる。
もうその時には、感動を通り越して軽い疲労感と多大な満足感にこちらも包まれていた。
隣で聴いていた母も、涙ぐみながら何度も拍手を送っていた。


じつに素晴らしいコンサートだった。
あえて注文を書くとすれば、MCがまったくなかったことか。
ただ、クラシックコンサートだとこういうスタイルなのかもしれない。
かえってMCを挟むと、全体のイメージが崩れてしまうかもしれないな。


コンサートとは別の点で気づいたことといえば、2階席に隣接するトイレの規模が小さいこと。
3階席にはトイレがないので、休憩時間には2階のトイレに人が殺到する。
しかも、女子トイレは4基しかないので、長蛇の列ができていた。
係員は「1階のトイレが広いのでそちらへお回りください」と何度も言っておられたが、足の悪い母のような方だと、1階へ行くのもまた困難である。
せめて、2階のトイレを増やしてもらうか、足の悪い方専用などの配慮がほしいところだ。
それ以外は申し分のない素晴らしいホールである。

あと、日本センチュリー交響楽団のフルートのパート、女性の方が2名担当されていたが、向かって右側の方、海外の方のようでジョディ・フォスターそっくりの美人だった(笑)


帰りの車中、「よかった、よかった」と、何度も言う母と共に、新世界の通天閣の横を走る高速道路を通過中、そういえばここも『砂の器』の舞台になった場所だったなぁ・・・と思いながら感動に包まれつつ帰路を急いだ。



今回の東京公演でのライブ・アルバム。
指揮:西本智実
ピアノ:外山啓介
演奏:日本フィルハーモニー交響楽団

「ピアノと管弦楽のための組曲『宿命』」と「弦楽のための三楽章」が収録されている。
リリースは7月23日だが、今回の大阪公演の際にロビーにて先行発売されていた。


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「ピアノと管弦楽のための組曲『宿命』」。
『砂の器』(74)公開の翌年にリリースされた、「宿命」を組曲にアレンジしたLPレコードを86年にCD化したもの。

今年、オリジナルサウンドトラックがリリースされるまでは、このディスクがいわゆるサントラという立場にあった。

最初にCD化されたのは、このポリドールからリリースされたバージョン。
86年に初CD化後、廉価版となって95年に再リリースされている。

指揮:熊谷弘
ピアノ:菅野光亮
演奏:東京交響楽団


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スナノウツワ
『砂の器』(74)のサントラCD。

今年(2014年)、映画公開から40周年を記念してリリースされた、オリジナル・サウンドトラック音源のCD化。

これまで組曲としてアレンジされたものしか聴けなかったが、こちらはオリジナルサウンドトラックなので、映画音編で流れるスコアを可能な限り収録されている。

クライマックスを飾る「宿命」も幾つかのパートに分かれており、既発売盤の組曲と聴き比べするもの一興である。


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コメント

Re: お邪魔します

> スミノエさま

コメントいただき、ありがとうございます!!

本当に、あの満員のホールの中で感動を共有できて、ほんとうに良かったですよね!

僕も数年前のデジタルリマスター版の上映を観ました。
つい最近撮影したんじゃないか、っていうくらい鮮明な映像に驚嘆しつつ、それが映画館で初めて体験する『砂の器』でした。

「午前十時の映画祭」のラインナップに入ってますね。
最寄りの劇場でも上映されると嬉しいのですが、それが叶わないとなればステーションシネマまで行くかもしれません(笑)

僕は鉄道関係には疎いので、その矛盾点というのはまったく判らないので、気にならずに観ることができましたが、逆に言えばそういう視点からの楽しみ方もこの映画にはあるということですね。

とにかく、今回のコンサートだけでなく、関西でも映画音楽を中心に取り上げるコンサートを、東京のようにもっと開催してほしいなぁと思いました。

お邪魔します

はじめまして。
コンサート私も行きました。演奏が始まってすぐ胸に熱いものがこみ上げてきて、涙が滲みました。ほぼ満席の多くの皆さんと感動を共有出来て、とても良かったです。映画「砂の器」は、作者松本清張先生が「小説じゃ書けない、映画でなけりゃ出来ないすごい…」と絶賛されている作品で、当然それは映像だけでなく音楽も含めての事だと思いますが、今回のコンサートでこの映画における音楽の重要性を再認識しました。なお原作は和賀英良や三木巡査の人間性が全く違い、感動はありません。
この映画は1974年の公開時に見れず、私も初見はテレビでした。最初、鉄道ファンである私は鉄道シーンの矛盾点が気になり、良さが充分理解できなかったのですが、好きな作品ではあり、折に触れ録画を見返していました。2005年にデジタルリマスター化された後の2007年に初めて劇場で鑑賞し、深い感動を覚え涙が止まりませんでした。前述の鉄道シーンの矛盾点などこの映画の本質に何の関係も無いと今は思えます。(ちなみにこの映画の直接のリメイクとされる2004年TBSドラマ版の鉄道シーンは、でたらめすぎます。)
オリジナルサウンドトラックのCD、私も購入しました。大変嬉しいのですが、「今西、山陰路へ」がマスターテープが現存せず映画音声より収録されていることと、本浦父子の別れの最終場面の音楽もマスターテープから消去されていて収録されていなかったですね。後者は、「組曲宿命」のパート1に入っていますのでそちらで聴けますが、前者は組曲にも入っていないので残念です。
公開40周年という事でコンサート開催・CD発売、そして偶然でしょうがそれに呼応するように、来年3月まで開催中の「第二回新・午前十時の映画祭」でも上映されますね。似ているという事でよくこの作品と比較される「飢餓海峡」もラインナップに入っていて、先日大阪ステーションシティシネマで先に上映されたので鑑賞してきました。あちらも重厚な作品で主役3人の演技力が素晴らしく音楽も印象深い。甲乙つけがたいですが、より好きなのはやはり「砂の器」です。また劇場で鑑賞出来るので、今から楽しみです。

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