■『小さいおうち』■(映画) 







チイサイオウチ
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時代は昭和初期。

東北の寒村から東京へ女中として働きに出たタキ(黒木華)は、当初しばらくの間は作家(橋爪功)の家で奉公するが、すぐに作家の紹介で東京郊外のとある家へ住み込みとして働くことになる。
赤い屋根がモダンな、それでいてこじんまりとしたその屋敷には、玩具会社の重役である主(片岡孝太郎)とその妻(松たか子)、そしてひとり息子の3人が暮らしており、タキも女中とはいえ家族同様の温かい扱いを受けるのだった。

ある日、その屋敷に一人の青年が訪れる。
主の玩具会社に出入りするそのデザイナーの男(吉岡秀隆)に、すっかり惹かれるタキだったが、惹かれたのは彼女だけではなかった。

やがて、その屋敷で「とある事件」が起こって・・・。

毎年新作を発表し、その精力的な活動に驚かされる巨匠山田洋次。
ただ、ここ数作は他の監督作品の焼き直しのような映画が続いて(『おとうと』、『東京家族』)いて、いずれも素晴らしい作品ではあったが、どこか手放しで喜べない部分もあった。
が、今回は脚色ものとはいえまったくのオリジナルであることがまず嬉しい。


映画は冒頭、大学生健史(妻夫木聡)の大叔母タキ(倍賞千恵子)の葬式から始まる。
健史は、独身を貫き一人余生を送るタキの身の回りの世話をしており、彼女に自分の若い頃の出来事を執筆するように勧めていたのだった。
最初は躊躇していたものの、健史の強い勧めでしぶしぶ大学ノートに回顧録を綴っていくタキ。
映画は現代の物語とタキが執筆した回顧録とが交互に描かれる。

どこか『永遠の0』と構成がかぶる部分もなきにしもあらずだが、興味深いのは実際に戦前の昭和を生きた者と、後からその時代のことを聞かされた者との、その時代に対する印象のギャップを描いているところ。
タキが女中として過ごした「小さいおうち」には、あらゆる西洋文化が取り入れられたいわゆる昭和モダンを代表するものにあふれていた。
時代の流れこそ戦争へと突入していく日本だったが、そこから切り離された世界も実際に存在したという部分は、平成を生きる者には大きなカルチャーショックである。

とはいえ、そんな「小さいおうち」も時代の流れには勝てない。
タキも、そして彼女が過ごした屋敷の人々も、望むと望まなくとも戦争の渦中へと放り込まれていくことになる。

映画は戦争という大きな流れとともに、また別の抗えない流れを描いている。
田舎から都会へ、強い憧れを持ってやってきたタキの心に、まず小さな傷を作るのは、俗物の作家だ。
その愛欲に汚れた大人の世界を垣間見て困惑するタキ。
幸いにも新しい奉公先には、欲などとは無縁の幸せな家族がいて、自分はこの家族に身を捧げる思いで尽くそうとする。
しかし、この家の住人もじつは欲にまみれていることに愕然とするのである。

やがて屋敷で起こる事件と、それに対してタキがとった行動は、純真無垢だった彼女の心を汚した、俗物たちに対するささやかな抵抗だったのかもしれない。
その抵抗はその後何十年もタキの心に不発弾のように仕舞い込まれており、彼女の死後、思いがけない形で炸裂することになるのは、映画をご覧になった方ならばわかるだろう。

外見はチャーミングだが、じつは相当にドロドロしたものが渦巻いている「小さいおうち」は、そのままタキの心の中を現すものでもある。
その「小さいおうち」への憧憬と、その時に心を汚されてしまった嫌悪との間に挟まれて、年老いたタキが思わず嗚咽する場面には胸を締めつけられずにいられない。

けっしてハッピーエンドとは思えない(それは僕だけかもしれないけど)、爽快感とは程遠いあのラスト・シーンは時代と人との渦に巻きこまれてもがき続けた一人の女性の怨念のごとき心情が、登場人物それぞれの心に強烈なしこりを残してしまったからだと思う。

じつに奥深く、恐ろしく悲しい映画だった。


秘めた思いを表に出さず、奉公先の家族に尽くそうとする若きタキを演じた黒木華の演技が素晴らしい。
みごとベルリン映画祭で最優秀主演女優賞を獲得したのもうなずける。
無論、年老いたタキを演じる倍賞千恵子や松たか子も素晴らしかったが、ここは黒木華が役得だったと思う。



チイサイオウチ
スコア担当は久石譲。

山田洋次監督とは2度目のコラボとなる久石譲のスコアは、主に第1テーマと第2テーマで構成されている。
第1テーマはタキの「小さいおうち」への憧憬を表現したかのようなノスタルジックな味わいのライトな旋律だが、第2テーマはガラリと変わってワルツを基調とした大人びた旋律だ。

無論、これは誰の心情を表現しているかはいわずもがな。
劇中ではこれらのバリエーションがシーンに合わせて流れてくる。

シンプルな構成だが、確実に観客の耳と心に訴えかけてくる深みのあるスコアだ。。

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