■『ATOM』■(映画) 


アトム
今年は手塚治虫生誕80周年ということで、彼の作品に関するイベントもいろいろ展開されていたようですが、先に公開された『MW』もその一環だとすれば、さぞかし手塚治虫御大も草葉の陰で泣いておられるのではなかろうか、と考えるのは余計なことでありましょうか。
そんななかで、いよい公開されたハリウッド版&オールCGによる「鉄腕アトム」である本作『ATOM』。
観客動員が見込めるシルバー・ウィークに公開されたものの、意外なほど話題に挙がらないのはどうしたことか(僕が見落としているだけかもしれませんが、TVスポットの類いも観たことがないのですけど・・・)。

この作品に関しては、コンセプト・デザインが発表された際に、アトムの片腕にキャノン砲、お尻かはマシンガンという、まんま兵器というイメージが濃厚で、正直なところ印象がよろしくなかったものです。
それに加えて、公開後の評判も良いとも悪いともほとんど入ってこないし(それだけ観ている人が少ないということか)、いったいどんなもんなんだろう、と。
ハリウッド版とはいいつつ、肝心のCGは香港のイマジ・スタジオが担当(なので本作はアメリカ・香港の合作とクレジットされています。かつての『トロン』みたい)しているということで、日本のアニメが原作なのにそれだったら日本のスタッフを起用しなさいよってなもので、そういうある種の疎外感みたいな空気が漂っていて、それもいまいち本作を観る興味が希薄だった要因なのかもしれません。
僕自身この映画を観ようと思ったのは『エスター』でも素晴らしいスコアを聴かせてくれたジョン・オットマンが音楽を担当しているという、ただそれだけの理由で。
だから、観たかったというよりも聴きたかったといったほうが正しいかもしれません。
ってなわけで、うかうかしていると上映終っちゃうかもしれないので、急いで観に行ったわけですが・・・。


アトム1
遙か未来、世界は荒れ果ててしまって人々は空中に浮遊するメトロシティで暮らしていました。
その暮らしは科学者テンマ博士が開発したあらゆるロボットによってまかなわれており、不要になったロボットは地上へ廃棄されていたのです。
テンマ博士の息子トビーは、頭脳明晰、成績優秀な少年でしたが、ロボット兵器「ピースキーパー」の実験に巻き込まれて命を落としてしまいます。
悲しみのあまりテンマ博士は、息子の記憶を移植し、エネルギー源として友人のお茶の水博士が開発したブルーコアを内蔵したロボット版トビーを造って悲しみを紛らわせようとします。
しかし、日に日に人間の子との違いを痛感した博士はロボット版トビーを拒絶。ロボット版トビーのほうもてっきり自分は生身の人間だと思い込んでいたのに、空を飛べるわ、怪力の持ち主だわ、で、自分がロボットだということに気づいてしまいます。
悲観する彼にお茶の水博士は「きっとどこかに君の居場所はあるはずだ」となだめますが、家を飛び出してしまうロボット版トビー。彼はメトロシティを離れ、荒れ果てた地上へやってきます。
そこで3体の廃棄されたロボットと出会ったり(彼等に「アトム」という名前をつけてもらう)、コーラという少女をリーダーとした浮浪児グループと仲良くなったりして過ごしますが、やがて、かねてからブルーコアを兵器に使用すべく企んでいたストーン大統領に捕らえられ、再びメトロシティへ連行されてしまいます。
テンマ博士はストーン大統領の命令に従い、アトムからブルーコアを取り出し、ピースキーパーに移植する改造手術を施そうとしますが・・・。


我が子を亡くした親の子供への思い、あるいはその逆の思いという親子の情であるとか、自分が生身の人間だと思っていたのがロボットだと知ってしまう苦悩。
あるいはロボット同士の友情であったり、命の重要性といった、おそらくは原作でも描かれているであろう要素はきちんと本作では描かれていて、驚くほど違和感は感じませんでした。
ところどころに涙腺を緩ませるようなエピソードも差し込みつつ、それでいてコミカルな部分も盛り込んでいるなど、エンターテインメントに徹したその作風はディズニーやドリームワークスのそれらと肩をならべるクオリティだと思います。
ハリウッド版ということで本編には一切日本語表記は登場しません。
先にも書いたようにCGは香港の会社ということで、漢字は登場(店の看板などで)するもどう見たって中国のそれ。
しかし、ストーリー自体は別段突拍子もないものでもなく、オリジナルから逸脱している印象もない。
まして、ヒョウタンツギにヒゲオヤジ、手塚治虫御大まで画面の隅にちょこっと登場するなんてのは、まさに手塚作品の原作のテイストで、いかにスタッフが原作を尊重して本作を作っているかが窺い知れるもの。これは素直に嬉しいと思いましたねぇ。
1時間半の上映時間ということで、展開は息つく暇も無いほどスピーディであり、もうちょっと「間」というものを盛り込んでほしかったきらいもありますが、そういうところはハリウッドライズされている部分なのでしょう。
しかし、おそらく日本でCGアニメ化されたとしても、内容的にも技術的にも本作とあまり変わらないんじゃないかと思うくらい、違和感の無い作品でそういう意味では拍子抜けしてしまいました(笑)

肝心のCGも、これまたディズニーやドリームワークスのそれとも遜色の無い出来栄えでしたし、興味深かったのはアトムの肌の感覚(テンマ博士に抱きしめられてり顔を触られたりする際に、ちゃんとへこむんですよ)の表現であったり、あのアトムの頭の角(という表現は的確なんだろか)が、彼が飛行している際にはかすかに風になびいているんです。
こういう細かい設定が、アトムをただのロボットではなく心の通ったロボットであることを明確にしていて、そこはCG作品である本作の真骨頂だと思います。


アトム2
僕は本作を、上戸彩(アトム)、役所広司(テンマ博士)らによる日本語吹き替え版(字幕スーパー版の上映館がかなり少ない)で観たのですが、これだけ内容に違和感がなかったのならば、フレディ・ハイモア(アトム)、ニコラス・ケイジ(テンマ博士)、ビル・ナイ(お茶の水博士)、ドナルド・サザーランド(ストーン大統領)、サミュエル・L・ジャクソン(ロボット・ゾグ)、シャーリーズ・セロン(ナレーション)といった、そのまま実写で演るとスゴイだろうなぁ、と思わせる錚々たるキャスティングによる字幕スーパー版で観たかったものよと痛感しました。
それならば、ある種の違和感からくるハリウッド版アトムという括りで、違った見方もできただろうと思うのですが。

さて、肝心のジョン・オットマンのスコアにつて。
相変わらず耳に残るメロディ・ラインではない(ここが彼の評価の分かれるところ)のですが、フル・オーケストラでかなり盛り上げてくれます。
無理矢理ソング・ナンバーが割り込んでくるようなこともなく、このあたりはさすがハリウッド映画だなぁ、と実感したのですが、それならば最後の最後までオットマンのスコアで通してくれればよかったのに、エンドクレジットでおなじみの「鉄腕アトム」のテーマソング(もちろん日本語で。唄っているのはアトムズ。何だよ、アトムズって?)が流れるのは、お約束なのかもしれませんが正直興醒めしてしまいました。
これは日本語吹き替え版のみに流れるもの(またしてもかっ!)だそうですが、余計なことすんなよな、と思ったのは言うまでもありません。
(MOVIX橿原にて鑑賞)

【採点:100点中60点】

※あ、やっぱりノベライゼーション、発売されてたんですね。
子供向け、って感じですか。まぁ、そうだろうなぁ・・・。



※最近刊行が始まった、「手塚治虫文庫全集」。
その第1弾が『鉄腕アトム』なのですね。





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