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■『希望の国』■(映画) 







キボウノクニ
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作品が発表されるたびにセンセーショナルを巻き起こす、園子温監督の最新作。
東京、大阪ではすでに10月に公開済みだが、奈良県ではMOVIX橿原にて12月1日からの2週間限定公開となった。

とにかく、監督の東日本大震災とその被災地に対する思いは強く、前作『ヒミズ』(12)では撮影直前に震災が起こったこともあり、急遽物語に震災の要素を加えるようシナリオを変更。
結果、震災直後の生々しい被災地の様子をフィルムに収めるに至った。

たしかに、未曽有の事態を映像に記録するという意味では意義のあることだと思うけれど、付け焼刃じゃないが、監督の思いはわからないでもないけど、なんというか抵抗感が否めず映画に没頭することができなかった。

でも、今回の『希望の国』は最初から震災、もとい、震災によって引き起こされた福島の原発事故による二次災害をベースに、監督自らが被災地で取材して見聞した事実をもとに作り上げた作品ということなので、『ヒミズ』とは描く要素に共通するものがあっても根本的なところから大きく異なる。
だから、僕自身もフラットな視線で作品を観ることができた。

長島県という原発を有する架空の地が舞台。
そこで巨大地震が発生し、それによって原発事故が起こる。
やがて、放射能汚染によって原発より半径20キロ圏内の住民は強制退去させられてしまう。
映画の主人公は、はからずも自分の家の庭がその退去の境となってしまった、酪農を営む小野一家。
庭の真ん中が退去の境ということが実にナンセンスだが、実際に先の震災では庭どころか家の中を退去の境となった場所もあったという。
同じ場所の空気を吸っているのに、ばっさりと境を決めてしまう国の対応。
国家の未曽有の危機に対する対応のいい加減さ、ひいては脆弱な部分が映像として強烈に突き刺さる。

やがて、汚染は広がり小野家も強制退去せざるをえなくなるが、小野老人(夏八木勲)は、これまで暮らしてきた地を離れないと退去を頑なに拒むのだった。
退去勧告に来た役場の職員の「郷土愛なのか?」の問いに、そうではなく先人から受け継いだ土地を守っていく「義務」だと小野老人は強く語る。

「郷土愛」ではなく「義務」。

この小野老人は、実際にかの地での原発事故によって退去せざるをえなくなった被災地の人々の代弁者ともいえる。
また、小野老人の妻(大谷直子)は痴呆症にかかっており、彼女の面倒を見るのも夫である彼の「義務」。
が、妻の面倒を見る彼の姿には「義務」という印象はなく、そこにあるのは長年培ってきた「夫婦愛」であり、その行き着く先は・・・これは本編で確認していただきたい。

また、老夫婦の息子夫婦(村上淳、神楽坂恵)は、心ならずも老いた両親を残し他県へと引っ越すが、その途中で理不尽な差別(ガソリンスタンドにおける場面では、劇中で特定の業者の名前がはっきり映っていたけど、印象もあるだろうによく許可したものだ)に遭ったり、引っ越し先においてもすでに大気汚染が始まっていることに愕然とする。
さらに、自分が妊娠していることが分かった妻は、放射能に対して異常なほどに敏感になり、防護服を身にまといながらの生活を送るため、周辺住民からは笑い者になってしまう。
彼女の行動はそんな異常事態のなかで、お腹の子供を守るための母親の「義務」だ。
この若い夫婦にも容赦のない現実が降りかかることなるが、妻の「愛があるから大丈夫」というセリフが示すように、ここにもピュアな「夫婦愛」がある。容赦ない現実を「夫婦愛」で乗り越えようとする二人の姿は儚くも感動的だ。
園監督はこれまで自身の作品で、さまざまな愛の形を描いてきたが、今回の映画はひとつの到達点のように思う。

ところで、本作は先の震災を再び描いたものではなく、あの震災があった後で再び場所を変えて震災が起こったという設定になっている。
小野老人が「福島の時は国はなにもしれくれなかった」というセリフに顕著だが、先の震災、そして原発事故以降、果たして国はどのような対策を実際に行ってきたのか、あるいは行おうとしているのか、明確にならないまま時間が過ぎているのが現実だ。
さらに、近く行われる衆議院議員選挙を前に、脱原発、卒原発を声高に謳う政治家たちを見ていると、彼らの言う「国が大事」よりも「保身が大事」なんじゃないのか? と思わざるを得ない現状を考えれば、本作にあるのは国に対する諦念のようなものを強く感じる。

では、監督はそんなマイナス指向で本作を撮ったのだろうか?
本作のタイトルには強烈にシニカルな印象を受けるものの、ストレートに捉えれば本作を観ることで、なにか前とは何か違う意識が生じるかもしれない。たとえ行動に移さなくても、意識だけでも改めることができるかもしれない。
そういう希望を込めて題したのならば、これ以上ピッタリなタイトルはない。

無力な我々に、フィクションとはいえ極めて現実に近い出来事を映像として叩き付けてくるその姿勢は、直接的な暴力描写が希薄なれど、映画の存在自体は観客に対して容赦しない。

この映画を作ることは監督の「義務」だったと考えれば、それを観ることは映画ファンとしての「義務」。
でも、互いに「義務」と感じさせないのは、詩的な映像と哲学的なセリフと、それでていてエンターテインメントとしての面白さも決して損なわない監督独自のその作風から感じられる「映画愛」と、それに魅せられた映画ファンの「映画愛」なのだ。



キボウノクニマーラー
園監督の作品では既成曲がしばしば使われるが、今回も同様でまず本編のいたるとことで流れてくるのがマーラーの交響曲第10番第一楽章「アダージョ」。

クレジットによればNAXOSレーベルの音源を使用とのことなので、おそらくはアントニー・ウィット指揮、ポーランド国立放送交響楽団の演奏によるものと思われる。

キボウノクニオオハシ
また、クラシックとともに使われているのが、映画音楽の作曲も手がけている大橋トリオ(大橋好規)が、2008年にリリースしたオリジナル・アルバム「borderless」から数曲使用されている。

特に引っ越し先で新たな生活に希望を膨らませる若夫婦の姿に流れるナンバー「tenboudai」が効果的だった。



〖MOVIX橿原にて鑑賞:12月1日~12月14日までの期間限定上映〗




※園子温監督による本作の原作(?)本。

いや、これはメーキング本というべきだろうか。

映画本編を観て、興味を持たれた方は是非手に取っていただきたい。









※本作で使用されたと思しき、マーラーによる交響曲第10番が収録されているCD。

アントニー・ウィット指揮、ポーランド国立放送交響楽団の演奏。
交響曲第3番との2枚組CDとなる。

ダウンロード販売もあり。

Mahler, G.: Symphony No. 3 - Symphony No. 10: Adagio - アントニー・ヴィット





※こちらも劇中で使われている、大橋トリオ(大橋好規)が2008年にリリースしたオリジナル・アルバム「borderless」。

ダウンロード販売もあり。

borderless - 大橋好規








※園子温監督、初期作品DVD-BOXセット。

『男の花道』ほか初DVD化10作品に加え、このBOXの為に完成させた、幻の未完成作品として伝説になっていた『BAD FILM』を含む、『自殺サークル』より前の初期作品15作品をディスク枚数8枚に収録!!










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