◆『愛のむきだし』◆(DVD) 


アイノムキダシ
劇場公開時に観たかった作品でしたが、なんせ上映時間が4時間近くあるということで、劇場へ行く時間込みで一日仕事になっしまうために結局都合がつかずじまいで、あれよあれよという間に関西での上映が終了してしまいました。
それだけでも悔しかったのですが、ついにDVD化されて満を持してようやく観たらば観たで、つくづく劇場で体験したかったものよと、さらに悔しさが倍増してしまいましたがな。


園子温という監督の作品を観るのは今回が初めて。
そもそも、その名前の読み方もしらなかったわけで、「監督の名前の読み方を次から選びなさい」という問いに対して「そのこ・あつし」と答えたばかりに映画検定で点数を取り逃がしたという苦い経験があるものですから、忘れようにも忘れられない名前でもありました。
一度、どのような映画を撮る方なのだろうか、最初にどの作品から観れば良いのだろうか、と逡巡している間に出会ったのが本作。

アイノムキダシ3
で、なんでこの映画が観たかったのか、ってえと、主演女優が満島ひかりだったから。本作の存在を知ったちょうどその頃に劇場で観た金子修介監督の『プライド』(09)は、いろんな意味で衝撃の一本でありまして、その衝撃の一つが満島ひかりという女優の演技を目の当りにしたこと。
黙っていればキュートなおね~ちゃんなのに、全身から搾り出すようなその怨念の塊のような演技にただただ圧倒されました。
それまでNHKの連続テレビ小説『瞳』や『プライド』と同じく金子修介監督の『デスノート』での演技は観ていたものの、かように迫力のある女優だとは嬉しい発見でありまして、そんな彼女が4時間近い作品のヒロインとなれば、そりゃあ興味が湧くのもとうぜんのこと。
事実、この『愛のむきだし』での彼女の演技は、『プライド』に勝るとも劣らない壮絶さであり、調べてみれば『プライド』は『愛のむきだし』の後に撮ったということで、なるほど、こんな演技を披露した後では何が来ても恐いものなしだったんだなぁ、と妙に納得してしまいました。

アイノムキダシ2
さて、『愛のむきだし』は、簡単に言えば昔からよくある学園ラブコメもののようなお話(ストーリーについての詳細は公式サイトなどを参照されたし)。
愛する女性が目の前にいるのに、いろんな障害が重なってそれが告白できない。しかも、自分は相手からもっとも忌み嫌われる存在である。そんなオーソドックスともいえるシチュエーションを主軸に、アブノーマルネタやらカルトネタやら、いわゆる人間にとっての負のカテゴリーがこれでもか、これでもかとってくらいに絡み付いてくる。
それが延々4時間という、もうお腹いっぱいで喰えません・・・ってな容量で描かれるのですが、これは誇張でもなんでもなく、その4時間のなんとなんと短いことよ。

テーマ自体はとてつもなく重いのですが、それをきちっと受け入れている出演者たちの演技もさることながら、重く暗いだけでなくところどころにコメディ的な要素を加えつつ、出演者ごとの視線でエピソードが語られるという巧みな編集、そしてほとんどの場面でBGMが流れている(ラヴェルの「ボレロ」であったり、ベートーヴェンの「第7番」であったり、賛美歌であったり、ゆらゆら帝国であったり)という、映像と音楽が織り成すグルーブ感というのでしょうか、それが観ているこちらのバイオリズムにもバッチリ合ってしまいまして、時間の長さなど微塵も感じませんでした。

そして4時間という物語の最後に待ち構えている、えもいわれぬ感動の一瞬。
嗚呼、ほんとうに本作を劇場で観ることができなかったことは悔やんでも悔やみきれません。


アイノムキダシ4
期待していた満島ひかりの演技は言うに及ばす、本作のいわゆる悪役を引き受ける安藤サクラがいいんですよ。
さすがサラブレッド(こういう言い方は好きじゃないんですけどね。両親はともかくその人の演技はその人の持ち味以外のものでも何でもないのですから)と思わせるくらいほんとに上手い。目の前にいたら思わず張り倒したくなるような憎たらしい悪役をじつに見事に演じきっていました。
主人公を演じる西島隆弘も演技初挑戦だったそうですが、難しい役柄を見事にこなしていました。
で、やっぱりここまでの演出をする園子温監督の手腕にはただただ脱帽ものでした。すぐに他の作品も観たくなりましたねぇ。


人間誰しも負の部分ってのは持っていると思うし、それをいみじくも本作では「変態」と表現していますが、他人を「変態」呼ばわりして非難するその人自身、では負の部分は持ち合わせていないのか? と問われれば、胸を張って「私は違います」と答えられる人って、それこそ聖人の域に達せねば不可能だと思うのです。
本作はそこを巧みに突いて、それこそむきだしにしていますが、だからといって変態讃歌の映画というわけでもなく、それを見つめる視線はあくまで慈愛に満ちているのです。
つくづく、自分のすべてをさらけ出せる人に出会えるというのは、とっても幸せなことなんだよなぁ、と考えてみれば当り前なことなんだけれども、それを実感させられるような映画でした。

ただし、実感するまでの道のりは決して安穏なものではなく、本作に登場するキャラクターにのしかかったあらゆる苦難や困難を4時間という上映時間のなかで目の当りにし疑似体験するという修行を経なければなりません。
その修行を得た後、ラストカットを体験した観客は、それこそ至福の喜びに包まれた表情で劇場を後にしたに違いありません。
何度も書きますが、その末席に侍ることが出来なかったのは、本当に残念至極なことでありました。


【採点:100点中95点】

※レンタルでは観ることができませんでしたが、セルDVDではメーキング映像や特典映像満載とのこと!
ううう・・・観たい。



※『愛のむきだし』の満島ひかりも壮絶でしたが、こちらもかなりのものでしたよ。
劇場公開観逃がした方には、ぜひお薦めいたします。




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