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■『空気人形』■(映画) 


クウキニンギョウ1
今年は『ラースと、その彼女』もあって、普段あまり取り上げられることのないダッチワイフをテーマとした作品が続いて公開されるというのは、なんだかユニークでよねぇ。
件の『ラース~』を観た際にも思い出したのは、昔、東京で単身赴任をしていた頃、マンションのゴミ捨て場にダッチワイフが放棄されていて、それを見つけた会社帰りの僕はもうビックリしたのなんの! すわ、死体だ! って。
で、結局その一件は特に大事にもならず、翌朝には清掃車が他のゴミと一緒にキレイに持ち去って行きました。
僕も男ですから、いわゆるアダルトショップの類いに足を踏み入れたことはあります。が、ダッチワイフってのはその存在は知っていたものの、実際に間近で見たのはその時が初めて。もちろん、触れたことなんてありません。
ですから、その質感というのはイマイチわからないんですけど、そのゴミ捨て場にあったのはいわゆるオーソドックス(?)な、風船みたいなやつ(奈良公園なんかに行くと、シカのおもちゃでそんなやつがありますね。ゴムの弁から空気を吹き込んでふくらませるの)でした。
でも、最近はそういうゴム風船みたいなのじゃなくて、もっとリアルな製品があるようで、そういうものはラブドールって呼ばれているそうな。
本作に製作協力としてクレジットされている、ラブドールのメーカー「オリエント工業」のHPというのがありまして、ちょいと覗いてみたらば、最近はこのジャンルも技術革新が進んでいるようで、なんとも驚くべき品々が実際に販売されています。
この世界もディープだよなぁ、と痛感したわけですが、興味がおありでしたら社会見学の意味でも一度覗かれてみてもよろしいんじゃないでしょうか(あくまで興味があれば・・・ですが)。


閑話休題。
『誰も知らない』(04)に強い感銘を受け、その年のベスト1に挙げた僕としては、同じく是枝裕和監督の最新作となれば注目しないわけにはいきません。前作『歩いても歩いても』(08)は残念ながら未だ観ることが叶っていないのですが、業田良家の短編漫画を原作にした本作『空気人形』は、ダッチワイフが心を持つことで展開される大人向けのファンタジー映画ということで、以前から公開を心待ちにしていました。
なおかつ、その心をもつ空気人形を演じるのが、韓国の女優ペ・ドゥナということを知り、思わず「なるほど!」って。
彼女の出演作はすでに何作か観ていますけど、かねてから人間離れした(いい意味で)、愛嬌のある表情をした女優さんやなぁ、と、それこそフィギュアみたいやなぁ、と思っておりまして、そんな彼女が空気人形って、「そのままやん!」とそのキャスティングに思わず唸ってしまったわけです。


クウキニンギョウ2
ファミレスの従業員、秀夫(板尾創路)は独り暮らし。
帰宅する彼を待つのは「のぞみ」と名づけられた一体のダッチワイフ。
秀夫は「のぞみ」に話しかけ、食事をし風呂に入りベッドを共にする。そんな毎日の繰り返し。
ある朝、突然「のぞみ」に心が宿ります。
生まれたばかりの「のぞみ」(ペ・ドゥナ)は、メイドの衣装を着込むと、町へ飛び出します。
その先々で見るものすべてが初めてのもので、彼女の心を満たしていく。
のぞみは一軒のレンタル・ビデオショップに迷い込むと、その店員純一(ARATA)にひと目ぼれ。
日中はビデオショップの店員として働くのぞみ。
夜はいままでどおり秀夫の相手をするも、「性欲処理の代用品」という自分の存在を肯定しつつ、心を持ったことに戸惑う彼女でありました。
ある日、のぞみは仕事中の事故で身体の空気が抜けてしぼんでしまいます。
驚く、純一。
しかし、即座にのぞみの傷をテープでふさぎ、身体に息を吹き込んで膨らませてあげるのでした。
自分の身体が純一の息で満たされたことで、のぞみはついに秀夫を拒絶し、純一のもとに身を寄せるのですが・・・。


人形が命を持つことで巻き起こるファンタジー映画としては、キム・キャトラルが魅力的だった『マネキン』(87)があったし、その前年にはかの金子修介が監督し水島裕子が出演した『いたずらロリータ 後ろからバージン』(86)という、日活ロマンポルノというジャンルはともかく、ファンタジー・ラブコメの傑作(ほんと、楽しい映画でしたなぁ)がありました。
今回の『空気人形』もいわばその流れを汲むもので、しかし、先の2作はいずれもマネキン人形だったのに対し、本作はダッチワイフということもあって、『いたずらロリータ~』以上にアダルトな要素が濃厚であり、生々しい描写も登場します。
それによって、本作に対して拒否反応を起こす方も当然おられるだろうし、僕自身はセクシャルな場面はそうでもなかったんですけど、クライマックス・シーンにおける展開が、そこまでの物語の流れを変えてしまうようなもの(ここでは敢えて書きませんが)だったので正直戸惑ってしまいました。
しかし、そのクライマックスの展開も含めて全編に漂う、詩情に満ちたキラキラした清涼感がじつにいいんです。

偶像が命を持つというファンタジー性に加え、空気人形であるのぞみを中心として彼女の周辺に現れる、生身の人間でありながら心が空虚な人々(逐一挙げませんが、錚々たる俳優がキャスティングされ、それぞれに名演を披露!)のエピソードを配することで、のぞみというキャラの持つミューズとしての役割から引き出される人間の深遠なるテーマである生と死、むしろ再生、復活というプラス面への言及が明確になっており、それらすべてを包みこむ是枝監督の演出はまったく無駄のないもので、監督自身の持ち味が十分活かされた秀作に仕上っていました。


クウキニンギョウ3
とりわけ、のぞみを演じるペ・ドゥナの驚くばかりのキュートさと、切なげかつ儚げなその演技の素晴らしさ!!
彼女については、『ほえる犬は噛まない』(00)や『復讐者に憐れみを』(02)などでその演技の幅の広さを実感(特に後者の壮絶な役柄を見よ!)していましたが、本作においてさらに女優としての実力が備わったのではないかと思います。
空気が抜けた身体に純一によって息を吹き込まれる場面、命を得て人を愛することを知った喜びを全身で表現する場面、そしてそれに戸惑う場面、愛することを知ったがために生じる嫉妬、そして秀逸なラスト・シーンなどなど、後世に語り継がれるであろう名場面の数々は、彼女がキャスティングされたからこそ成し得たものだったと思いますし、作り手の意図を見事に体現した彼女にはいくら賞賛しても足りないくらいです。



クウキニンギョウ4
かように魅力的な作品であるうえに、さらに嬉しかったのは映画ファンの心をくすぐる仕掛けが施されていること。
劇中にビデオ・レンタルショップが登場することで、そこで展開される映画ネタの数々の楽しいこと楽しいこと!
また、ショップの店長(岩松了)が、映画の面白さや素晴らしさを力説するとともに「映画は映画館で観なきゃダメだよ」と語る場面は、月並みなことかもしれませんが映画の作り手としては言わせたかったセリフでしょうね。
で、のぞみは仕事中に得た映画の知識をメモしておぼえるんですけど、店長はお薦めの映画ってことで『仁義なき戦い』を挙げる。で、のぞみは津島利章によるあのテーマ曲までおぼえてしまうんです。

♪ダンダンダンダン、ダンダンダンダン、ダンダンダンダン、ダ~ダ!♪

と唄いながら行進するペ・ドゥナ・・・。たまりませんでした!(笑)


もう一つ、本作で嬉しかったことといえば、映画のロケ地として築地近辺が選ばれたということ。
僕が東京で暮らしていた際、この一帯の風景が好きで時間があればよく散策したものです。
勝鬨橋、聖路伽病院、佃大橋などなど・・・。
あの隅田川から漂ってくるなんともいえない匂い(本作は「匂い」についても特別な描き方がされています)が、スクリーンを通じて漂ってきそうで、得もいわれぬ郷愁に包まれました。
あと、これは見間違いかもしれませんが、純一の住むマンションの隣の神社、あれは秋葉原の柳森神社ではないでしょうか。ここは狐ではなく狸が祀られているユニークな神社で、何度か通ったことがあります。


かように、本編の素晴らしさに加え、それ以上に得るものが大きかったファンタジー映画の秀作。
ぜひ、その空気感を味わっていただきたいものです。必見!!

(梅田ガーデンシネマにて鑑賞)

【採点:100点中85点】


※是枝監督の代表作。
本作を番組で紹介した際、感極まって思わず泣いてしまった経験あり・・・。



※ペ・ドゥナの壮絶な演技には、ただただ唖然・・・。


※お、これもDVDになっていたんだ!!


※業田良家による原作。
未読ですが、ぜひ読んでみたいものです。




コメント

素晴らしい!

ちょうどビンさんにサントラ依頼した時にこちら、一度拝見してたんですが、作品の解説、感動しました!ビンさんのダッチワイフ事件、笑い転げてしまいました。隅田川の高層ビル街とレトロな風景のコラボが、私も大好きです。小さい頃梅田に住んでた場所があんな感じやったんで、それを思い出してしまいました。
ほんとに考えさせられる作品でした。ラストのシーンは、私は大丈夫でしたが、もう一度CSでする機会があれば、もっと奥深くまで掘り下げてみてみたいですね。
また、サントラを担当してたのは、world end gislfriendという方たちやったんですね。YouTubeだと、怪しい画像と共に出て来たりして、なんでだろ?と不思議に思っていたんです。ここでもまた謎が解けました。
何度も何度も言ってしまいますが、ありがとうございました!

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