■『ブラック・スワン』■(映画) 


ブラックスワン
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いまから十数年前、新宿は歌舞伎町にあります「黒鳥の湖」で、大勢のお客さんの目の前にて・・・。

おもむろに舞台の上に呼ばれ、腰に筆を取り付けられた挙げ句に、おね~~~さんみたいな、おに~~~さんの背中に文字を書くということを強要、もとい、させていただきました。

んで、司会のおね~~~さんみたいなおに~~~さんに、

「んまぁ、腰の使い方がおじょ~~~ずぅ!!」

と褒められたあの夜のことは、いまでも忘れらないよき思い出でございます。


といっても、『ブラック・スワン』はそんな出来事を映画化したものではありません。
もちろん、舞台も歌舞伎町ですらございません(当り前だ)。

ブラックスワンプレゼント

主演のナタリー・ポートマンが本年度のアカデミー賞にて、見事オスカーを受賞したということで、なにかと話題の本作。

5月11日(水)という、とっても中途半端な日に初日(レディス・デーにぶつけたのでしょうか?)を迎え、平日の夜ではありましたが、仕事も早く終ったので早速観てまいりました。

あ、そうそう、初日プレゼントということで、プレミアム・グッズなるものを劇場でいただきました。
中身はミニ・ポスターでしたが、わざわざ黒いリボンで結んであるという、手の込んだものでございましたよ。





ブラックスワン2
ヒロインのニナ(ナタリー・ポートマン)はニューヨーク・シティ・バレエのバレリーナ。
新シーズンの演目は「白鳥の湖」に決まり、その主役にニナが抜擢されます。

監督であり振付師のルロワ(ヴァンサン・カッセル)は、彼女のダンサーとしての素質を評価していましたが、「白鳥の湖」では、主役は純真無垢なオデットと彼女が悪魔ロッドバルトによって魔法をかけられた悪女オディールの二役を演じなければなりません。

おぼこなニナにとって、主役に抜擢されたのは嬉しいけれど、悪女を演じるにはハードルがちょっとばかし高か過ぎたのでありました。
そこんところを鋭く指摘するルロワは、練習中にニナに対してエロティックに迫ってみたり、ウブな僕としては思わず赤面してしまうような宿題を彼女に与えたり、監督としての「愛のムチ」(傍から見れば、単なるセクハラにしか見えませんが)をいろいろとふるいます。

無論、ルロワにしてみればニナに女性としての完璧さを身につけさせることで、舞台を成功に導こうという思惑があったのですが、ヴァンサン・カッセルのあの昆虫みたいな顔でそれを言われてもなぁ、それはちょっと違うんじゃないのか、と思ってしまいますが、んなこたぁ映画の本筋とは関係ない。

で、その期待に応えるべく、ニナもあれこれ努力をいたします(ルロワに出された宿題も、ちゃんと実行しようとする健気さに思わず涙・・・)。

「なんで主役はあたしじゃないのよぅ!!」

と、ヒステリーを起こして去っていった先輩バレリーナのベス(ウィノナ・ライダー)の口紅を盗んでそっとつけてみたり、ニナとは正反対に妙に色っぺぇバレリーナ仲間のリリー(ミラ・クニス)の誘いに乗って「ちょっと悪いこと」をしてみたりするのですが、なかなか自分の殻から抜け出せません。

というのも、彼女が少女の頃からなにかと世話を焼くお母さん(バーバラ・ハーシー)の呪縛もあったりで、悶々とする日々を送るニナでありました。

しかし、舞台本番の日は確実に近づいてくる。
ニナも次第に情緒不安定になってくる。

はたして、彼女は無事にオデットとオディールを演じ分けることができるのでしょうか。
そして、見事舞台は大成功となるのでしょうか、というお話。


ブラックスワン3
と、ストーリーを追えば、困難に立ち向かって栄光を手にしようとするヒロインのサクセス・ストーリーのように思えますが、いやいや、そんなに甘くはございません。

なんせ、監督は奇才ダーレン・アロノフスキーですから、到底一筋縄ではいかない。

もちろん、彼の作風を知っている身としては、そんなこたぁ判りきっているわけで、ある種の期待を抱きながら本作と対峙したのは僕だけではないでしょう。
なんというか、独自の皮膚感覚というのでしょうか、観ているこちらの肌をチクチク、チクチクとつついてくるかのような不快感(実際に劇中でも、登場人物の皮膚に対して刺激を与える描写がちょこちょこ登場するのは本作に限ったことじゃありません)、それは時としてグロテスクという表現が適しているともいえます。
そりゃあ、人によっては不快なままで終ってしまうかもしれません。

それゆえ、けっして万人ウケする監督ではないけれど、不快感がやがて快感に変わっていくスリルを堪能できる人には、本作は至福の2時間を送ることができるでしょう。

もうね、今回なんて早いうちからけっこうチクチク、チクチクやってくれますよ(笑)


でも、それじゃこれが単に不快感を煽る悪趣味なだけの映画なのか、というと、決してそうではない。

バレエの主役に抜擢された喜びと栄光。
当然のことながら起こるのは周囲からの嫉妬や圧力。
その重圧のなかで精神が不安定になっていくニナ。

それがこの映画のテーマなわけで、そこで描かれるのは人間のリアルな姿なのです。

なかには思わず目を背けたくなるシチュエーションも登場しますが、それさえも人間の生の姿。
そのなかで苦しみ、もがき、あえぐニナと、尊厳と栄光を勝ち取るためそれを克服しようとする彼女の葛藤。
それ以外、本作では描かれていないことを考えると、これほど純粋かつ真摯な映画があるでしょうか。

完璧な演技を求める者とそれに応えようとする者が最後に何を勝ち取ったか。
心してご覧いただきたい。

あ、でも、アロノフスキー作品に免疫の無い方は、ある程度の覚悟は必要かと思います、念のため。


ブラックスワン1
ニナを演じたナタリー・ポートマン、さすがオスカーを受賞するだけのことはあるなぁ、と、その演技には終始圧倒されました。
特にクライマックスの怒涛の展開と、それを見事に演じきった彼女の女優力の凄まじさよ。

アロノフスキーのご無体な演出も見事にこなし、女優としてそれこそひと皮もふた皮も剥けた(意味深ですか?)ところを目の当たりにするに、思い起こせば『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)においても、ヒロインを演じたジェニファー・コネリーにご無体な演出を要求したアロノフスキー。

それによって、それまでのアイドル的なイメージのあったの女優を脱皮させた前歴、いや、功績がありますから、あらためて監督の実力を感じずにおれないのですが、演じるほうもそれをキチンと受け入れるだけの女優としての実力も備えてなくちゃいけないわけで、それを考えると今回のナタリー・ポートマンの起用はそれだけでも本作を成功へ導く大きな要因だったといえます。

特に今回は、バレエ自体も彼女が幼少の頃から習得していたということで、ダンスのシーンでは経験あるゆえの気迫というか、鬼気迫るものを感じずにはおれません。
いやぁ、凄いものを観させていただきました。

あ、凄いものといえば、本作ではナタリー・ポートマンの胸のぽっちり二つが鮮明に見えるシチュエーションが幾つか登場いたします。
もちろん、ある種の感動(どんな感動だよ?)を与えてくれるわけですが、『八日目の蝉』(11)における、井上真央の胸のぽっちり二つに較べれば・・・ま、そんな話はさておき。

キャストでいえば、先輩プリマを演じたウィノナ・ライダーのボロボロ感・・・。
これとて生の姿・・・か。

彼女とナタリー・ポートマンが共演というだけでも、この二人をアイドル視していた向きには、ビッグ・プレゼントなキャスティングだったのではないでしょうか(少なくとも僕はそうでした)。
つまり、アロノフスキーはナタリー・ポートマンだけでなく、ウィノナ・ライダーまでをも脱皮させたわけです。

また、ニナに対する異常な愛情を注ぐお母さんを演じたバーバラ・ハーシーの静かなる狂気の演技は、『レクイエム~』のエレン・バースティンに通じるものがあり、ベテラン女優ゆえの風格に満ちています。


興味深いのは、鏡を多用した演出。

もちろん映像のマジックとして、スタンダードなアイテムであり、本作での使い方も実にユニークなのですが、鏡に接近した撮影が頻繁に登場するのに、その鏡にスタッフが映り込まないのは、いったいどういう撮影をしていたんだろう・・・?
と、そんなことを考える間もなく、映画は怒涛のように過ぎていったのでありました。

とにかく、これからはダーレン・アロノフスキーの代表作といえば、『レイクイエム~』よりも、迷わず『ブラック・スワン』と言いたいと固く誓ったのでありました。


ブラックスワン
さて、音楽はアロノフスキー作品といえばこの方、クリント・マンセルが担当。

今回は題材が題材だけに、チャイコフスキーの「白鳥の湖」を下敷きとし、マンセル風にアレンジを施したり、あるいは原曲をそのまま生かしたりと、音楽的にもじつにユニーク。
ただ、オリジナル・スコアの比重が低かったためか、本年度のアカデミー賞における作曲賞ではノミネートされませんでした。
たとえば、昔のように編曲賞なる部門があれば、間違いなくマンセルはオスカーを手にしていたことでしょう。

本編では先にも書いたように、いわゆるアブノーマルな描写もゾロゾロ登場しますが、それをサポートするスコアにクラシカルな香りを漂わせることで、映画自体にも風格をもたらしています。

特にクライマックスのナタリー・ポートマンの演技、マンセル&チャイコフスキーのスコア、そしてアロノフスキーの演出が三位一体となって展開される様は、劇中のニナ同様、前身に鳥肌が立つような興奮でした。

・・・完璧!!


最後に参考までに。

本作は地元の映画館MOVIX橿原で観ました。
この劇場は他の劇場にくらべ、重低音が強めに設定されているようです。
実際に他のシネコンもいろいろと訪れていますが、その差は歴然です。

これは、たとえばアクション映画などでは絶大な臨場感を与えてくれるものなのですが、効果音、スコア等々において、音響効果の真骨頂を、本作のようなサイコ・スリラーでも存分に体験させていただきました(途中に登場するディスコの場面においても)。

(MOVIX橿原にて鑑賞)

【採点:100点中95点】


※本作のサントラ。
スコアはクリント・マンセル。
いつものように前衛的な部分もありますが、レビューで書いていたように基本はチャイコフスキーの「白鳥の湖」。
それをいかにマンセル風に味付けしているかを堪能していただきたい。
いうなれば、マイケル・ナイマンのそれに相通ずるものがありますね。
あいかわらず、前島秀国氏の詳細なライナーノートが添付されているのは嬉しいですねぇ。




※本作を観るまでは、間違いなくダーレン・アロノフスキーの代表作として推していた『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)。
観ている間、もしくは観終わった後、精神的にかなりダメージを与えてくれること請け合い。
『ブラック・スワン』も基本的には同じテイストを持っています。
そこがアロノフスキーの作家性なんだろうなぁ。





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