■『渇き』■(映画) 


カワキ
ブームなんでしょうか、最近はヴァンパイアをテーマにした映画がやたらと多いですよね。
でも、僕が子供の頃によく観た、クリストファー・リーがドラキュラを演じたような映画と最近のそれとはその様相もかなり違いますけどね。

さてさて、韓国の奇才パク・チャヌクの新作も、なんとヴァンパイア物でございます。
でも、ふつうの(もともとエキセントリックなジャンルなので、ふつうという表現は正しいのだろうか?)とは一味も二味も違うのは、監督が監督なのでさもありなん、ではありますが、それでもなおパク・チャヌク、今回もとんでもない映画を放ってくれましたよ。


敬虔なクリスチャンであるサンヒョン神父(ソン・ガンホ)のお仕事は、病院にていまわの際にある患者の魂を救済すること。
しかし、彼の祈りも空しく、息を引き取る患者たちを目の当たりにして、自分無力さを痛感いたします。

そこでサンヒョン神父は、人々に自分の身を捧げようと決意。不治の病といわれる「エマニエル・ウィルス(そのネーミングがなんとも)」の実験台になるためアフリカの研究施設へ。

でも、あっさりウィルスにかかって命を落とすサンヒョン神父(意味ないじゃん)。

・・・が、なんと研究施設で受けた輸血によって、息を吹き返すのでありました。
めでたし、めでたし。

カワキ1
本作は、そんな奇蹟の聖人が活躍する、なんともありがたいお話、なわけないじゃないですか。

監督はパク・チャヌクだもの・・・。

サンヒョン神父はその輸血が原因で、人間の生血を飲まないとウィルスが再発して、体中に水泡ができてしまいます。
そして、職業柄抑え続けてきたあらゆる欲望(特にセクシャルな部分)に、ブレーキが利かなくなってしまうのでした。

さて、そんなサンヒョン神父の前に現れたのがテジュ(キム・オクビン)という一人の女性。

彼女はサンヒョン神父の幼馴染みガンウ(シン・ハギュン)の妻で、日頃から夫とその母(キム・ヘスク)から虐待を受けている様子。そんな毎日から逃避したいと思いつつ実行できない鬱憤を、裸足で夜の街を疾走することで解消しているテジュでした。
一方、欲望と抑制の中でもやもやしながら夜の街をさまよっていたサンヒョン神父は、裸足で疾走するテジュを見かけます。
互いに抑制されたものから解放されたい二人が、恋におちるのは自然なことでございます。

深夜の病院で情事にふける二人。
そのうち、テジュがガンウに虐待を受けていることを察したサンヒョン神父は、テジュと共謀してガンウを殺害しようと決心します。

さぁ、ここから(そう、ここまではほんの序の口)サンヒョン神父と人妻テジュの冥府魔道な物語が繰り広げられます。
はたして二人のたどり着いたところは、天国か地獄か???

カワキ3
ま、とにかくね、次から次へと登場するエロティックかつヴァイオレンスなエピソードがてんこ盛り。
しかし、そこにブラックな笑いを忍ばせるのは、同じく個人的に好きな韓国の監督、ポン・ジュノと手法が似ていますが、パク・チャヌクはそこに「痛み」という感覚を盛り込むところが独特なところ。

たいてい映画を通じて得るものといえば、視覚と聴覚が中心ではありますが、パク・チャヌクの作品はそこに「痛み」も加わってくる。
過去の作品にくらべれば、まだ今回はエロティシズムのほうが勝っていた感がありますが、それでも一貫してスタイルを崩さないところは彼の作品を観る醍醐味。
それは一見、悪趣味ととられるかもしれませんが、彼が作品に忍ばせるそのエキセントリックな要素は、人間の本質をえぐるものであり、それを映画で明確にするからこそ、彼の映画は「痛い」。

今回も、先に書いた物語以降の展開が、まさに人間のエゴ丸出しの阿鼻叫喚な内容なんですけど、これも書いたようにブラックなユーモアと、そしてそこはかとないペーソスを忍ばせています。
それもやはり人間の持つ本質なのかもしれません。


「おもしろうて やがて悲しき 鵜舟かな」

とは、芭蕉の有名な句ですが、厳密な解釈は違うかもしれませんけど、まさにこの『渇き』がそれ。

ということを考えると、芭蕉の句は鵜飼の後の寂しさを切り取っただけではなく、そこに人間の本質を忍ばせたことが、いまにしてわかったような気がします。

そうか、パク・チャヌクは韓国の芭蕉だったんだ・・・。

カワキ5
サンヒョン神父を演じたソン・ガンホは、今回の作品でオールヌードにもならなきゃいけないってわけで、減量したうえにかなりひきしまった体型になっております。
信仰のためにと思ったことが、己の欲望を解放することになる戸惑いと恐れと喜びを巧みに演じています。

キム・オクビンとの濃厚なラヴ・シーンはともかく、裸足の彼女をそっと抱え上げ、自分の革靴を履かせる場面は、映画における新たなラブ・シーンの名シーンの誕生を目の当りにした思いです。

この革靴、後でまた巧い使われて方をしているんですよねぇ・・・。


そして、ヒロインを演じたキム・オクビン。
彼女の諦念に満ちた前半のキャラと、サンヒョン神父とであって解放された後半のキャラ、とりわけとんでもないファム・ファタールぶりを発揮する後半での彼女の演技が凄まじく、思わず目からウロコが落ちる思いでした。
そんな二人の顛末は、昨年公開されたとあるヴァンパイア映画に通じるものがありましたが、それでもなお、トンデモなくスンゴイものを観たなぁ・・・という感想が正直なところ。

とにかく、万人にはお薦めできかねますが、こういう作品を観て、人間とは何ぞや・・・と考えてみるのもいいかもしれませんぞ。


さて、パク・チャヌク監督によると、この作品はエミール・ゾラが描いた「テレーズ・ラカン」という物語がベースになっているとか。
その物語、52年にマルセル・カルネ監督のメガホンで『嘆きのテレーズ』のタイトルで映画化された由。
タイトルくらいは目にしたことはあったけど、その内容まで知りませんでした。

で、いろいろ調べてみますと・・・。

ヴァンパイアの要素以外、ほとんど一緒でした・・・。

(MOVIX橿原にて鑑賞)

【採点:100点中70点】


※本作のサントラ。
もはや、パク・チャヌク作品にはなくてはならない、チョ・ヨンウによるスコア。
バッハの作品を盛り込みつつ、エモーショナルなメロディ・ラインが今回も五臓六腑に染み渡ります。
なお、ダウンロード版は劇中に流れた韓国歌謡が収録されていないバージョン。
歌謡曲が収録されているのは、韓国リリース盤(すみません、ここではアップしておりません)

※iTuneによるダウンロード販売(購入希望の方は、画像をクリック!)。


Thirst (Music from the Motion Picture)

※やっぱり、こういう作品くらいは観ておかねばなぁ・・・。




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