FC2ブログ

■『マーターズ』■(映画) 


マーターズ
ホラー映画の世界も日に日にその流行が変わりつつありまして、一時期は日本製ホラー映画、俗にJホラーなるジャンルが大層もてはやされたものでしたが、最近はどうも下火になってきた感がございますなぁ。
それにとってかわって、いまやフレンチ・ホラーがファンの間では大人気。
フランス映画といえば、どこかおっしゃれ~~~なイメージがあるのですが、ことホラー映画になりますと、アメリカのそれとは違って独特の空気(けっこうウェット感があるんですよ)というんでしょうか、そういうものが全面に漂っておりまして、それがファンの嗜好にマッチしたんじゃないかと思います。
そもそも『ハイテンション』(04)のアレクサンドル・アジャの成功が、フレンチ・ホラー人気の火付け役となったと解釈しているのですが、アジャはそのヒットによってハリウッドに招かれ、いまや『ピラニア』(78)のリメイクを任されるほどの出世ぶり。
そんな彼に追いつけ追い越せとばかりに、おフランスの才能ある新しいホラー監督が続出しているのも嬉しい限り。

今回の『マーターズ』の監督、パスカル・ロジエもそんな新しい才能の一人。
本作は今年最も恐ろしい映画との呼び声も高く、先に首都圏で上映されて、ようやく関西でも解禁されました。
確かにおそろしい映画に違いなく、というか、とんでもない映画でありましたが、その反面、いろいろ感じさせられる深いテーマをも持っている稀有な1本でした。


映画は開巻早々、相当にインパクトの強いシーンから始まります。
とある郊外の閉鎖された食肉加工工場から一人の少女が逃げ出します。リュシーというその少女は何者かによってそこに監禁され、長期間にわたり拷問と暴力を受け続けていたのです(ただし性的暴行は一切加えられていない)。
頭は剃られて丸坊主。全身に無数の傷と打撲傷。下着姿のまま脱走したリュシーは無事施設に保護され、リハビリの日々を過ごすことになります。
リュシーは施設で歳が近いアンナという少女に心を開き、いつしか二人の間には友情が芽生えていきます。
よかったね、リュシー! でも、映画はここで終りません・・・。
15年後のとある日曜の朝、リュシー(ミレーヌ・ジャンパノイ)は、郊外にある一軒のお家を訪ねます。
パパとママとおに~ちゃんと妹ちゃんの4人構成のそのお家。どこにでもある普通の家庭です。

♪ピ~ンポ~ン♪ 日曜の朝っぱらからいったいどなた? 

とパパが玄関先に出ます。
そこにはショットガンを構えたリュシー。
彼女はパパを皮切りに、あっという間に家族四人を銃殺。瞬く間に血の海になるお家の中。
じつはリュシーを長年監禁し暴行を加えていたのが、その家のパパとママで、リュシーにとっては積年の恨みをそこで晴らしたということだったのです。
電話で自らの凶行をリュシーから聴かされたアンナ(モルジャーナ・アラウィ)は、急いで家へ向かいます。
そこには4人の家族の惨殺死体と、放心状態のリュシーの姿が。
とりあえず、アンナはその場を収拾しようと、4人の遺体を片付けようとします。
しかし、突然リュシーを全身切り傷だらけの恐ろしい怪物が現れては彼女に襲いかかります。
怪物は片手にカミソリを持つと、奇声を発しながらリュシーに飛び掛り、彼女を執拗に切りつけます。
血まみれで怯えるリュシーですが、アンナにはその怪物の姿が見えません。
しかし、アンナが目を離している隙にまたもや怪物が現れてはリュシーを執拗に攻めます。
その怪物はリュシーが施設でリハビリの生活を送っている際にも、しばしば現れては彼女に襲い掛かっていたのでした・・・。

じつはその怪物はリュシーの妄想の産物であり、彼女が監禁されていた食肉加工工場を脱出する際、隣の部屋に監禁されていた女性こそがその怪物の正体だったのです。
リュシーと同じように鎖でつながれて全身傷だらけのその女性は、逃げようとするリュシーにすがろうとしますが彼女にはどうすることもできません。仕方なく、その傷らだけの女性を見捨てるような形でリュシーは脱走したのでした。
つまりは長年受けてきた暴力と、女性を見捨てたという罪の意識に苛まれて、リュシーはずっと幻覚を見続けていたのです。
怪物に何度も壁に頭を打ち付けられ、両腕をカミソリで切り裂かれるリュシー。しかし、アンナには怪物の姿など見えず、リュシーが自傷行為をしているとしか見えません。
やがて混乱したリュシーは家を飛び出すと、自らの喉をカミソリで掻き切ってその場で絶命するのでした。
大切な友人を失って泣き崩れるアンナ。
長年友人を悩ませたトラウマを解消してやることもできなかった後悔の念と、本当にリュシーを監禁したのは彼女が殺害したこの4人の家族なんだろうかという疑惑。
なんとも後味の悪い、すっきりしない映画だなぁ・・・と思いきや、おっとどっこい、映画はそこから思いもよらない方向へ展開していきます。
なんせここまでで映画はほんの序の口。それ以上は・・・書けない書けない。


マーターズ1
この映画、じつは知人からフランス語によるオリジナル版のDVDを数ヶ月前に観せてもらっておりまして、今回が初めての鑑賞ではありませんでした。
なので、当然のことながら初見の際の衝撃は今回は薄れていた(なんせ結末がわかったうえで観てますので)のですが、劇場では日本語の字幕スーパーが表示されますので、登場人物の細かいニュアンスなどがよくわかりました。
そういった細かい部分を再確認することで、本作の持つ深遠なテーマがより明確(たとえば登場人物の一人が映画のラストで取る行動が、初見の際にはイマイチ理解しづらかったのですが、そのあたりも解消できました)になりましたし、そういうこともさることながら、やはりスクリーンで観るのと家のモニターで観るのと、同じ映画に相対するにしても大きく違うということを今回改めて実感した次第。


肝心の本作の内容については、上に挙げた前半部分までしか明かさないというのが、映画に対する敬意というものでしょう。
後半の展開とその顛末が本作の最も重要な部分であるがゆえに、そこを論じたい方が多いのも本作を目の当りにした方なら不思議じゃないと思います。
かくいう僕も、パスカル・ロジェ監督が本作を作るに当たっておそらくインスピレーションを受けた映画や書物ってこれだろうなぁというものも幾つか挙げることもできます。
しかし、それらがことごとくネタバレにつながる危険を孕んでいるものであり(もっと書けば日本版ポスターの構図も僕にはネタバレにつながると思うんですけど。あ、ここではそのポスター、絶対に掲げませんのでご安心を)、それならば一切書かないほうがよろしかろうと。

ただ、それでもなお言えることは、げに人間の頭の中身(脳味噌ってことじゃなく、心のという意味で)というものは、深くて複雑なものであることだなぁ、ということ。
たとえばSMで考えてみれば、サディスティックな行為を実際に行って正当化する者と、いえいえ、私はそこまでふっきれませんが行為自体は納得できますという者。逆にまったく理解できないという者。
一方、マゾヒスティックな行為についても同じことが言えます。
かように一つの行為でも立場の違いによって受け取り方がまったく異なってくる。
でも人間としては変わりがない。
でも、それぞれに秘めているものは違う。
でも、人間という括りでは同じ。
でも、中身はそれぞれ違う・・・ってなことを、この映画を観終わって家に帰るまで、そんなことがグルグルグルグル堂々巡りのように回って回って、まるで悪酔いしそうになりました。

ま、そんな映画ということです(どんな映画だ?)。

ということで、単にホラー映画というジャンルでは括れない、深遠なものを秘めた作品でありました。
でも、ホラー映画やゴアな場面に免疫の無い方、いや免疫のある方でも、本作で描かれるものは相当キツいものがありますので、そのあたりはそれなりの覚悟をもってご覧になられたほうがよろしいでしょう。

マーターズ2
二人のヒロイン、もっともリュシーを演じたミレーヌ・ジャンパノイは前半で姿を消してしまいますが、アンナを演じたモルジャーナ・アラウィと二人の熱演が、本作をよりリアリティのあるもの、ひいては映画の持つテーマ性を説得力のあるものに貢献しており、文字通りの体当たり演技はそれを演出したロジェ監督してもさぞかしやりがいのあるものだったことでしょう。
また、劇中でなんともおぞましくもある種の美学をも感じさせる特殊メイクを担当したブノワ・レタン(惜しくも本作完成後に亡くなったとのこと)のいい仕事も、ジャンル・ファンならばぜひ堪能していただきたい。
かように内容であれビジュアルであれ、幾つもの切り口のある映画というものは、あらゆるジャンルにおいても数少ないと思います。
機会があれば、そして心臓に毛の生えた方ならば、ぜひトライしていただきたいホラー映画の秀作であります。


さて、映画の内容からちょっとズレますが、記録という意味で。
今回、本作は大阪は十三にある第七藝術劇場(以下、ナナゲイ)のレイトショーで鑑賞しました。
前回訪れたのはダリオ・アルジェント(奇しくも本作のエンドクレジットには、「ダリオ・アルジェントに捧ぐ」とロジェ監督のメッセージもクレジットされています)の最新作『サスペリア・テルザ』だったということで、なんだかホラー映画御用達みたいな映画館ですが、昨年はかの『靖国』をあらゆる事情のなかで上映に踏み切った映画館魂にあふれた気骨のある小屋です。
で、僕が本作を観に行った際、劇場のあるサンポートビルの火災警報器が何度も誤作動を起こしまして、サイレンとともに「火事です! 非難してください!」のアナウンスも何度も流れるというトラブルが発生。
最初、上映を待っている際にもこれが流れたので「すわ! 火事か!」と思ったら、スタッフの方がこれは誤動作であるとのこと。
ただ、上映中に同じような誤作動が起こるといけないので、その確認のために上映開始が遅れるというアナウンスがありまして、僕のような遠路はるばる出向いているような身としては、帰る電車がなくなっちゃいますやんか、どうしてくれますねん! と、映画以上にドキドキ・ハラハラしていたのですが、結局は予告編を飛ばして本編からの上映だったので、帰りの電車にも十分間に合いました。
今回の件は、ナナゲイが悪いんじゃなく、ビルの管理責任者が悪いのであって、ナナゲイ側としてはとんだとばっちりだったと心中察しいたします。

マーターズ3
あともうひとつ。
僕が座っている席の前に座っていたバカタレのこと。
ナナゲイではたいがい自分の座る位置ってのは決まっておりまして、今回もそこに座ったんですけど、僕の前に一人のそうだなぁ、だいたい僕ぐらいの年齢の男子が座っておりました。
こやつ、上映中に身を前に乗り出しやがるんです。映画館、特に最近のシネコンはけっこう傾斜があって前の席の人の頭が邪魔にならないように設計されていますが、ナナゲイのようなミニ・シアターではなかなかそこまで対処できていない、いわば一部フラットな席の配置がされているところも多々あります。
そんななかで、身を乗り出して映画を観られると後に座っている者としては、その頭が邪魔でスクリーンが見づらいことこの上ない。普通に背もたれに身を任せたらええやないかい、ドアホ!
しかも、前に座っていたバカタレ、劇中のゴアなシーンになるとおそらく興奮するのでしょうか、上体をぐるんぐるん回転させやがるのです。
僕も長年映画館で映画を観てますけど、こういう奴を見かけたのは初めて。しまいにゃ、よくそんなに身体が回るよね、と妙に感心したりして・・・。
しかし、スクリーンが観づらいわ、字幕は下に出ますのでぐるんぐるんで字幕がよく見えないわで、映画以上にイライラ・ムカムカして、思わず後頭部を張り倒したろか! と思ったくらい。
暴力的な映画を観ていると、ついついそんな衝動にかられてしまいそうですが・・・、あ、ひょっとしたらこれって、ひとつの試練だったのかもしれませんね。どこまで自分の心を抑制できるかっていう(んなわけないか)。

(第七藝術劇場にて鑑賞)

【採点:100点中70点】

※すでに本国ではDVDがリリースされています。
僕が初見したのも、これ。それにしても新品でこの値段にはオドロキです。



※本作品の参考書。
これ以上は言わない、書かない。