♪『カムイ外伝』♪(サントラ) 


カムイガイデン
『レッドクリフ』があれだけヒットしたのは、ジョン・ウーの演出や多彩な出演者の魅力もさることながら、岩代太郎によるスコアによるところも大きかったんじゃないかと思います。
なにしろ、僕が映画を観に行った劇場にて、上映を待つ休憩時間に隣に座った老夫婦が

♪タ、タ、タ、タラ~ララ~♪

と件のメインテーマの旋律をくちずさむという、久しくそんな体験などなかった僕としては映画音楽ファンゆえの喜びと、それほど一般に浸透したスコアを書いた岩代太郎という作曲家の偉業に、ただただ打ち震えたのでありました。

さて、白土三平の原作を崔洋一監督が映画化した『カムイ外伝』は、『レッドクリフ』を筆頭に、本年だけでも『真夏のオリオン』、『火天の城』と担当作品が続く岩代太郎の最新作。

本作で岩代太郎が目指したのは「無国籍感漂う流浪人と土の匂い(劇場パンフレットより)」とのこと。
『火天の城』においても、記憶は定かではありませんがパンフルートのような音色も流れていたことを考えると、日本の時代劇に異国の音色を流すという一見(一聴か)ミスマッチな取り合わせでありながら、抜群の効果をあげているのは映画をご覧になった方なら納得いくものと思います。
奇しくも、同時期に公開されている『BALLAD 名もなき恋のうた』における佐藤直紀のスコアも、メロディこそジャパネスク・ムードあふれるものでありつつ、それを奏でるのは異国の楽器という共通点を見るに、時代劇というある種ファンタジックな世界を表現する手法としての無国籍感というのは、もはやスタンダードになっているのかもしれませんね。
そのなかで、個々の作曲家がどれだけ個性を発揮できるか、というところが映画音楽ファンとしての興味深い部分なのであります。

アクション映画のカテゴリーにありながら、岩代太郎のスコアはおおむね抒情的な旋律で構成。
パーカッシヴなスコアでアクション・シーンをサポートするという場面もありながらも、その印象は極めて薄く、作曲家自身の言葉で言うならば「無国籍感漂う抒情詩」の印象の方が濃厚な仕上がり。
主人公カムイのテーマとして明確な旋律が書かれており、それがアレンジを伴ってあらゆるスコアのなかで息づいていて、そのある種悲壮感を伴った物悲しい調べは、主人公のみならず登場人物それぞれが背負った「業」までをも見事に表現しています。
とりわけその旋律を主体とした「Sacrifice」というスコアは、バンドネオンの第一人者小松亮太の華麗なプレイがフィーチャーされた名曲で、これが『カムイ外伝』のスコアだと聞かされてなければ、イタリア映画かなにかの音楽に思えるほど無国籍感濃厚な一曲(ちなみにこのスコアは小松亮太の最新アルバム『紺碧~昭和タンゴ・プレイバック』にも収録)。
また、「Midnight Sun」のような、TVの紀行番組に流れてきそうなジャパネスクな旋律もあって、ここでも岩代太郎の多才ぶりが発揮されています。

惜しむらくは、かようなスコアが流れていながらも、また出演者個々の名演が光っていながらも、それを表現する映像自体が力不足であり、相乗効果にまで至らなかったのはつくづく残念なことであり、映画はそれを構成する要素が一つでも力不足だとすべての完成度にまで大きく影響してくる総合芸術であることを、この素晴らしいスコアを聴くたびに痛感する次第です。

カムイガイデンアライブ
また、本作においてもエンドクレジットではスコアが流れるのではなく、ヴォーカルナンバーが締めくくるというスタイル。
ただし、倖田來未が歌う本作の主題歌「Alive」は、ヘンデルのアリア「私を泣かせてください」に、倖田來未自らが詩を書き、岩代太郎がアレンジを施した佳曲。
このヘンデルを使うというアイデアは崔洋一監督の要請だったとのこと。全編のスコアに溶け合うような岩代太郎のアレンジと、CD会社の関係という下世話な見方はともかく、倖田來未のヴォーカルが見事にマッチして、この殺伐とした物語を締めくくるにふさわしい、溜飲の下がるナンバーに仕上っていました。

なお、倖田來未によるナンバーはサントラに収録されていますし、劇場パンフレット・CD付版(¥1200)には、主題歌1曲のみ収録されたCDがオマケで付いています。

【採点:100点中80点】


※主題歌も収録されているのは嬉しいですよね。


※バンドネオンの第一人者、小松亮太の最新アルバム。